最初の夢シーンからは何かＢ級の雰囲気が漂いはじめましたが、なんのなんの、映画をよく分かっていらっしゃいます。というより好きなんですね。映画への愛情が映像の片隅にも出ていました。何と言ってもカメラへの親近感が素晴らしいです。レンズの堅さを感じないというか、まるでコンタクトレンズのような柔らかさです。自然、映像も優しく愛情に溢れた映像を僕たちに提供してくれています。

話自体は別に映画的でもなく、どこの家にでも潜んでいるようなありふれたものです。でも、だからこういう素材を映画化しようとするのは逆に難しいと思います。でも榊は彼の暖かい気持ちを１００％映像にぶつけて見せた。他愛ない話のようだけれど、本当にどこにでもあるしかし人生の真実を映像化しているのだ。その溢れた人間への愛情の露出は、そのまなざしは、人間の生き方としての原点に僕たちをいざなってくれる。

じわじわ泣けちゃいました。いい映画です。

俳優陣も多彩で、彼のいい人脈を感じさせます。特に阿部サダヲの、驚くなかれ静か演技。石橋蓮司の、珍しい枯れた演技。そして今年亡くなられた深浦加奈子さんの活きのいい演技。その他一人一人の演技も素晴らしく、それぞれさわやかな余韻が残りました。