[コメント] ダブリンの時計職人(2010/アイルランド=フィンランド)
映画を見終った人むけのレビューです。
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車で生活せざるを得なくなった中年男の貧窮生活。衣類等の洗濯はどこかの洗面所で人の目を気にしながら行う。頭も水で石鹸もないまま洗う。車だけは持っているので青空駐車場で眠ることは出来る。
そんな男に駐車場でのお隣さんができる。けれど若い男で薬をやっているらしい。まるで息子のような年齢である。そこから敗者同士の営みが繰り広げられる。
ダブリンの静けさが彼らの交流を後押しする。あまり他人が彼らに入り込んで来ないので(売人のワルはたまに来るが)、何故か悲創的な話なのにむしろコミカルでさわやかな話に思えて来る。こんな生活だったら僕でも出来そうかなと思ってしまうほどだ。
風呂が入れずにスポーツセンターに行き出してから同じ寂しさを持つ中年女と巡り合う。この映画に潤いが出て来るいい展開だ。
3人とも時間が止まった人たちだ。時計は掃除するだけで動き出したように何か始めればいいのだ。その何かが出来ない彼ら。
けれどその何かをやろうと始めた若者。突如彼は実家に帰るが、父親との絶縁は想像以上に強く、打ちひしがれてしまう。
若者は父親からもらった時計を大切にしていた。若者の死後、中年男は父親にその時計を届ける。初めて父親は息子の思いを知る。ここで堰を切ったように急に涙が止まらなくなる吾輩。センチだ。定石通りのストーリーだ。いやだいやだ。でも、心がひくひく鳴っている。
その後中年男も中年女もそれぞれの心の時計を刻み始める。
いい話だね。けれどよくある映画ストーリーだとも言える。しかし、定番では年寄りの死を乗り越えて若者が新たな歩みを始めるといった話が多いのにこの映画は逆。ここがチクリと現代の病理をえぐっているようで僕は感心した。
また、この映画では主人公の中年男の経歴などはほとんど明かすことなく終わる。これも珍しい映画かなと思う。でもそれでも立派に主人公たり得ているのだから見事な脚本と言えるだろう。佳作である。
アイルランドの風景が最後まで曇っていたように思えた。
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