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[コメント] ハッド(1963/米)

過去を背負い、父への思いはあれど素直になれず粗野なふるまいを繰り返す息子。そんな彼を受け入れない父との親子であるが故に埋まらぬ溝の深さが心に響く。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ハッドは語る「父とは不仲だったが、俺なりに父を助けてきたつもりだ」。そうなのだ。母や兄亡きあとの家庭を、彼は父を1人にすることなく、いつも傍に寄り添って生きてきた。しかし、厳格な父はそんな彼の存在を受け入れようとはしない。それどころか、彼の腕の中で息を引き取ろうという際にも、父には彼の姿は見えていなかったのだ。

つらく厳しい物語である。が、映画そのものはその厳しさの加減がほどよく仕上がっていて、再見に耐える作品となっている。これも役者陣の個性が生きた名演と、そんな彼らを生かした練り込まれた台詞、心に沁みる音楽旋律、息をのむしかない見事な撮影、デニム好きにはたまらない衣装、その着こなし等々、ゆったりとしたリズムの中にも見所あふれるつくりとなっているからであろう。

特にバス停でのハッドと家政婦との別れのシーンは素晴らしい。「乱暴にされなければ拒まなかった」なんて、これはまるでハッドそのものを表した台詞ではないかと思ってしまうし、そんな中で最後には独りとなりながらも、彼だけはその地で生きていくであろうことを暗示させる何ともいえぬ表情も印象に残る。

物語からしてどうしても『エデンの東』を想起せずにはいられない部分もあるが、これはもうそんな作品などとは比べ物にならない秀作である。久々に見終わってからじわじわと心に響いてくる作品に出合わせてもらった。厳しい作品ではあったが、幸せな気分である。

(評価:★5)

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