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[コメント] ブレッド&ローズ(2000/英=独=スペイン)

ふだん見聞きするアメリカとは異なる、アメリカのもう一つの現実を暴き出した意欲作だが…(本登録に際してコメント一部改編。10/18/03)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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おそらくは米国本土の人間(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとマイケル・ムーアは別として)はほとんどとりあげないヒスパニック(「ラティーノ」「ラテン系」という呼称で呼ばれることもある)の労働環境についての現状をとりあげた英国人ケン・ローチの骨太さに感じいった。スペイン語を母語とするヒスパニックは米国に大量に移住していて、いずれは白人を抜いて、人口比としては合衆国内のマジョリティになるとの推計が提示されている(都市部ではすでにマジョリティになっている、数のうえではすでに白人はマイノリティなのである)。どのような立場をとるにせよ、労働現場に限らず多岐にわたる分野でいろいろな問題が生じるのだろう。昨今のアメリカの保守化はこうした現実に対する、何らかの拒絶反応ととれなくもない。

ただ、どうも一元的な階級の視点から撮っているような感じがして、そこに息詰まりを感じた。例えば、バスに乗り遅れたためにクビを宣告された年配の女性。彼女は哀れさを引き出すためだけに、登場させられた感がある。クビにされた彼女のその後はどうなのか(プラカードで写真を使用させられるだけの扱いなのか?)。また、労働組合の会合において、すんなりと「私達」という語彙を使用し、一人一人の告白を吟味することなく喝采しあう姿をあっさり撮ってしまうのは、旧態依然とした(古臭い)組合への一方的擁護の姿勢を感じた。実態として今のヒスパニック労働者の闘い方が正確にどうなのかはわからないが、どうもケン・ローチが目のあたりにしてきた過去の組合運動のあり方をそのまま投影しているだけで、彼ら独自の運動のあり方にはそれほど気を配っていないような感じがした。(ケン・ローチ独自の労働者階級のグローバル一元化?そこに疑問を感じる。)

異なった立場に立つあの姉妹のエピソードを掘り下げていくことによって、話に厚みが出るのかと期待していた。ただこの部分に関しても、双方の衝突以降についての展開はおざなりであった。例えば、主人公の妹は姉の告白に涙を浮かべ、どうにもできない自分を感じている。ただそのわりには、彼女はその後も組合運動を続行する。あの涙から運動続行に至るまでの葛藤を映し出すことによって、彼女のキャラクターにも厚みが出るし、何よりも一元的な視点による話全体の息苦しさから解放されたのではないか。

私は、ケン・ローチの視点を一元的と考えていて、それは「脱出すべき」ものであることを前提にして論じた。ひょっとすると、脱出する必要はないのかもしれず、それがケン・ローチの頑固さであり、かけがえのない彼の個性なのかもしれない。ただ私はそこに物足りなさを感じた。「ブレッド」ばかりにではなく、「ローズ」にももっと厚みをもたせてほしい。骨太な力作ではあるのだが。

(評価:★3)

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