とりわけホラーで多用されるテクニックとして、幽霊などの怖い対象をぎりぎりまで見せない、または見せたとしても一部しか見せない、という手法がある。それはとても映画的な仕掛けでもある。

本作の幽霊はわりあいはっきりと全体が映っていて、上記の手法とは一線を画しているようにも見える。しかし、幽霊を映しながらも、それは主人公夫婦の周りの不穏な空気の一部の顕れにしかすぎない。少し乱暴に言うなら、怖いのは幽霊ではなく、幽霊を見て過剰な反応を起こす人間の姿とそれを取り巻く空気である。

個人的には、黒沢清にとってのホラーは目的ではなく手段に映る。それが明確に打ち出された作品。

＊この時期、既にドッペルゲンガーが出現していた。