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[コメント] 大地と自由(1995/英=独=スペイン)

 「なんのために、ここに来たのか」悩み続ける異邦人。これを観ている私と同じだった。
にくじゃが

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 遠く離れたところにいたときは、はっきり目的が見えていたのに。前線での議論、議論、議論。遠くにいたときにはわからなかった細かな意見たち。そんなものは求めていない、ただ戦いに来たんだ、と「政治の話はうんざりだった」主人公が巻き込まれざるを得なくなっていく。なんのためにここに来たのか、次第に見失って。

 暗闇での睨み合い。向こう岸に、イギリス人。名前もわからない向こう岸の彼も、自分と同じ気持ちでここに来たんじゃなかったのか。なんで、お互い睨み合っているのか。

 この「なんでなんで」を自分に問いかけ続ける主人公のあやふやさが心に残る。はじめは議論に参加することすらしなかった彼が、POUMを離れて周り自分を観て、要領よく流れていこうとする。周りを見ながら次第にはっきりとなにかを自分の中に見いだしていく彼。いきなりなにかをひらめく、というんじゃなく、この次第にていう課程がとてもリアル。思い悩むなんて誰でもやる。彼は普通の人、どこにでもいるような人。だからこそ、この話に入り込んで観られた。

 シンプルな理由でここに来て、複雑な理由で離れ、またシンプルなものを求めて戻ってきたのに、複雑な政治権力がそれをぶち壊す。この抗争は、悲しい。

 この時点で私は異邦人、デビッドに自分を重ねて観ていた。「むなしい」なんて思えなかった。デビットたちには(たとえ彼らが非合法の活動をしていたにせよ)自分たちは、体を張って、前線で戦い、貧農たちのような信頼を勝ち得てきたという自負がある。無駄だったとは思いたくない。むなしいなんて言えない。

 ラスト、無言で淡々と手紙を読んでいるところだけが映されていた孫、あの孫が、砂を撒いたあと、ガッツポーズ。(後ろにもちょこっとがポーズをとってる人が!何て控え目なケン・ローチ

 彼女たちの心にもこの話が響いていたのかと嬉しかった。なんのために、あの手紙、切り抜きたちが残されていたのか。きっと誰かに伝えるためだろう。「忘れられた歴史は繰り返す」 じゃあ、誰かが覚えていたのなら、もう同じ事は繰り返されないかもしれない。ここにあるのは小さくても非常にあっつい希望だった、と思いたい。

 なにかが伝わってきたよ、おじいちゃん。

(評価:★5)

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