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[コメント] ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女(2005/米)

アスランの雄叫びにも鳥肌が立ち、映画を楽しめたことは確かだ。ただ、映像化された「指輪物語」=『ロード・オブ・ザ・リング』のあの完成度を目にしてしまったあとでは、もやは物足りなさを感じざるを得ない。ある意味、不幸な作品だ。(2006.02.25.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ワクワクドキドキしながら観られ、楽しめたことは間違いない。リーアム・ニーソンの声が威厳を与えたアスランの雄叫びをこの耳で聞けば、そりゃ鳥肌も立つ。白の魔女を筆頭に、4兄妹にしても、フォーンにしても、違和感は感じさせない。キャラクター、ビジュアル含め、映像の中でナルニア国がしっかりと築き上げられていた。

 しかし、好きだらこそ、以下厳しい意見ばかりを綴る。

 世界観が良く出ていたことは間違いないが、原作を読んだ際に頭の中で思い描いていたものに、映像が追いついていない場面があった。

衣装だんすを抜けるとそこは雪に覆われた別世界というファンタジックな設定が、この物語の大きな魅力であるのは小説でも映画でも変わりはない。映画においても、雪が広がる世界へ飛び出したときの高揚感はあったと思う。しかし、文章を読んで頭に思い描いたよりも、映像で見るナルニア国は、現実世界の近くにあった・・・。活字から空想すると、衣装だんすの中がもっと長いように感じていたのだ。その点、映画は衣装だんすからナルニア国の距離を短く感じてしまった分、より現実に近い世界に見えてしまった。それが非常に残念。ナルニア国は、現実からはるかはるか遠い、空想の世界であるべきだと思う。

キャラクター描写も、やや薄く感じた。それは、特にエドマンドにおいて感じた。彼は白の魔女のそばにいたという事実から、4兄妹の中でも一番内面の葛藤がある人物。その彼が最終的には自分を取り戻す部分に爽快感がある。ただ、映画においては同じような行動をしているにも関わらず、あまり葛藤が伝わってこない。小説で描かれていた心理描写を、映像を通して伝え切れていないように感じた。映画単体として見た場合、決して感情描写が丁寧な映画とは言いがたいだろう。

 そして何よりも、僕らはすでに『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ3作を観てしまっているという事実が、実は致命傷になっていたのではないだろうか。

 BGMしかり、敵に追われる際のテンポやシーン作りしかし、戦闘シーンしかり・・・どこかしら『ロード〜』を彷彿させる。彷彿されるのは良いことかもしれない。しかし、どこを取ってみても、『ロード〜』のあの完成度にはさすがに及ばないのだ。特に戦闘シーンではそれが露骨だった。やはり豪快さを持つピーター・ジャクソンの演出の方が圧倒的に迫力がある。クライマックスの戦闘は規模の大きさを感じさせてはくれたが、必要以上にスローモーションが挿入されることで、バトルの流れが断ち切られてしまっていた。

 『ロード〜』の特に1作目は、ドラマもアクションも詰まりに詰まっていた。『ナルニア国物語』を『ロード〜』と比べてはいけないことはわかっている。比べないようにしようと思って観ていた。しかし、見せ方が非常に似ていたため、嫌でも比較してしまった。そうしたら絶対に叶うわけがない。残念ながら、そう言わざるを得ない。

 映画の出来が悪いというより、すでに同ジャンルであまりに完成度の高い記念碑的名作があったことが不運だというべきか・・・。アプローチを変えたら良かったか、いや、そうも思えない。やはり、『ロード〜』があのクオリティで先に映画化されていた上で、この映画を作ったことへの副作用があったとでも言えばよいか・・・。『ロード〜』は原作とほぼイコールの魅力があったと感じているが、『ナルニア〜』は映画が原作に追いつけなかった。楽しめたのも確かだが、複雑な心境にもなった。

(評価:★3)

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