[コメント] ワールド・トレード・センター(2006/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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英雄の美談でもなければ、痛切な悲劇でもない。それだけナーバスな題材である“911”をストーリー映画として、手堅く、そして丁寧に描いた映画である。
マイケル・ムーアの『華氏911』はドキュメンタリーであり、作り手の主張が剥き出しの、エンターテイメントでありつつ、一種のジャーナリズムだった。ポール・グリーングラスの『ユナイテッド93』はドキュドラマであり、実際のニュース映像を効果的に使用したリアリズムに基づき“状況”を描く作品であった。どちらも、純粋な人間ドラマではなかった。
オリバー・ストーンの『ワールド・トレード・センター』は、911同時多発テロを題材にした、人間ドラマであり、その点では初めての映画らしい映画と言えるのかもしれない。しかしその分、ハードルは高い。それを考慮すると、本当に良く作った映画と言えるし、評価に値する。
だが、それでも前述の2作と比べると、その衝撃度は薄い。ストーリーやある人間に重きを置けば置くほど、題材に神経質にならざるを得ないのが現状なのかもしれない。すごく良い映画だが、鋭さに欠けてしまっている。『プラトーン』のような鋭さを持つ傑作までには達しないのだ。
911テロを題材に、鋭い視点を持ったストーリー映画を撮るには、まだ時期が早すぎるのかもしれない。バランスを取ってなんとか…、というのが現状。この映画はこれ以上ないくらいにベストを尽くしているが、本当に残る作品になるには、更なる何かが必要だったことも否めない。だが、今はまだ無理なのかもしれない。
とは言え、これがただのパニック映画には収まらないことだけはしっかり心に留めておきたい。それだけ重い題材を扱ったのだから。911である必然性、それは備わっていると思う。
ヒメノが助かった際にビルがなくなったことを知って受けた衝撃は計り知れないものだっただろう…。
エレベーターボーイをする息子を病院で待つ黒人女性の嘆きにより、助かった2人とは裏腹に、助からなかった人が大勢いるということも、痛感させられる…。
救助作業の場面を見ても、あれはニューヨークでありつつ、戦場のようだった。マンハッタンの摩天楼が、あんな光景になるとはあの日まで誰も想像すらできなかった…。
ひとつの人間ドラマを通して、あの日アメリカが受けた“傷”を描いたこと。この映画は傑作ではないにしろ、それだけはきっちり受け止めるべきだ。次のステップへ繋げるためにも…。
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