[コメント] ケス(1969/英)
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ろくに人の話も聞かず、訳もなくソワソワしていて、これといった友達もいない。かといって、頭がよいわけでもなければ、喧嘩が強いわけでもなく、むしろずさんなことこの上ない――キャスパーの奴、あの時分の自分そっくりで、此奴が「このオバケめ!」と教師に怒鳴られたりするのを見るにつけ、いや、単に駆けずり回るのを見るだけでも、胸が張り裂けそうになる。
とても思い入れ(作家の、或いは自分の)を感じる映画だ。
ケスは空を飛び回る。空は、キャスパーにとって、此処ではない何処か。ケスは、キャスパーにとって、此処ではない何処かを見せてくれる使者。だからこそ、キャスパーはケスをこの上なく尊び、大切にする。
でも、キャスパーが生活しているのは、紛れもなく此処。“此処”は、飛ぼうと藻掻く我らの背に音もなく忍び寄ってきては、引きずり降ろそうとする。逃げ切ることはできない、永遠に。そして、使者は殺された。
彼は泣き叫び、復讐しようとさえ試みる。でも、彼は、きっと気付いていた、心の何処かで。使者を此処に繋ぎ止めていたのは自分自身だったことに、そして自分自身も紛れもなく此処の住人だったことに。
だから、彼は復讐を諦め、たった一人使者の埋葬へと向かった。――此処ではない何処が、此処に浸食されて終わる結末、そうして物語を埋葬せねばならなかった作家の真摯な想いは痛いほど伝わってくる。
でも、それでも、キャスパーには、ケスが此処を逃れ、此処ではない何処かへ帰っていく姿を見て欲しかった。
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