上は、気違いと言われて怒った市川染五郎に対する夏木陽介の名セリフである。まったく、大阪夏の陣から始まったことを思えばどいつもこいつもこのセリフに集約されてしまう者ばかりだ。死に場所を探してうろつく者が主人公なら、裏切って味方の城に火をつける者、辻斬りや夜鷹に身を落とす者、商人や坊主に鞍替えする者。こいつら烏合の衆のおかげで、早くも作品中盤で哀れ豊臣の若君は斬首されてしまった。

しかし、士魂魔道のタイトルに相応しく、ラストに至るまで自由主義侍のオンパレードだった。で、そいつらが何とか理由をこさえて「豊臣家再興のために」豊臣家埋蔵金を奪い、案の定欲に目がくらんで同士討ちを始める。この結末をどうするかと見守っておれば、なんの脈絡もない大龍巻がやってきてみんな吹き飛ばされてしまう。このシーンを担当した円谷英二もいい面の皮であるなぁ…。最後に残ったのは染五郎、恋人の星由里子、そして唐突に現われてはおいしい所を掻っ攫ってゆく三船敏郎。しかし、裏切り者（というか染五郎たちもすでに目的を見失っているのだが）に木に繋がれてしまった星由里子は助けるのに、どうして染五郎は見捨てるんだ、三船？運良くその直後に竜巻がやってこなければ裏切り者に切られてあの世行きだぞ。

個人的に、そういうメチャクチャな筋書きにもかかわらず好きだったのは、もと熱血侍、いまは「おぬしは運のいい男か、悪い男か？」と訊ねて人を斬る佐藤允と、伊賀者のしつこさを強調しながらその実、染五郎に岡惚れしている水野久美だった。