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[コメント] 息子のまなざし(2002/ベルギー=仏)

主題曲のひとつもかからない、素っ気ない画面に焼き付けられた「息子のまなざし」ならぬ「オヤジのまなざし」。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







オヤジは非行少年を更正させる作業所で、木工技術を教えている。それこそ、一人ひとりの弟子を息子として送り出すくらいの意気ごみをもって、だ。

だがここに特別な少年が現われる。オヤジの息子を些細な理由から殺し、一家を崩壊させた張本人だ。だがオヤジは、憎しみをふつふつと滾らせながらも、彼に他と変わらぬ情熱をもって木工を教える。それがオヤジの存在理由であり、妻がその事実を聞いて凶行に及ぼうとしても、それを押しとどめてでもやらねばならぬ天職だからだ。

だが、その少年を弟子として認めるために、オヤジはひとつの事実を少年を前に吐き出さねばならなかった。

「おまえが殺したのは俺の子だ」

それを耳にした少年は恐怖をもってオヤジから逃げるが、オヤジが少年を殺すことはもはやない。その言葉を吐き出すことが、オヤジのもうひとりの息子を認めるために必要な儀式だったからだ。秘密と殺意を胸に隠したままで関係を正常に保つことはできない。物語はその直後、少年がオヤジの作業を手伝う場面でちょん切れるが、その映画作法ひとつが、オヤジの生き方を雄弁に物語っているように見えてくる。

(評価:★4)

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