「うつせみ」などという『源氏物語』まがいの邦題をつけた人の神経を疑うが、ともあれ現代の怪異譚である。日本で言えば「座敷わらし」のような、危害さえ加えなければ怖くもなんともない悪戯者の「お化け」をめぐって話は展開される。

その青年の留守宅めぐりから話が始まるので、ともすれば監督のマジックに引っかかってしまうが、からかわれる一般人たちのドラマである。ボクサーも写真家も、利用されたものの不思議に怒る気にはなれないお化け事件の目撃者である。それは、誤ってゴルフボールを自動車に乗っていた女性にぶつけてしまい、頭を抱えて後悔する未熟者の妖怪なのだから、ヘマもする上に例外的な人物に遭遇することもあり、これが中心的なエピソードを生んでゆく。

…と、いうふうにも解釈できる青年と、苛められている主婦との出逢いは偶然に過ぎなかったし、その主人に出逢って痛めつけられた上、警察沙汰にされてしまうのも単なる運の悪さだ。しかし青年は、これを身を隠す術のいい訓練の場所にしてしまう。その結果、青年は彼を不倶戴天の敵と狙う主人から完全に身を隠すマジックに成功し、主人をはさんで主婦と小鳥のようなキスを交わすなんとも微笑ましいシーンを見せてくれることになる。

この作品、今までのギドク作品同様一筋縄でいく物語ではないのだが、あちこちにコメディ場面をはさんだ彼には珍しい、優しく軽めな印象のお話に仕上がっている。テーマ性は弱いが、敢えてそんなものを血眼になって捜すのは愚の骨頂だろう。夢かうつつか判らない別世界の輪舞を気軽に楽しめばそれで良い。そういう意味では、純愛物語という提供会社の謳い文句も、あながち外れていないといっていいのだろう。これは上のような奇天烈な観かたをも許容してくれるであろう、切り口の多数存在する物語なのだから。