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[コメント] 牛若丸(1952/日)

美空ひばりの主演する『牛若丸』は、決して『源義経』には成り得ない。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







それはもちろん、身も心も男になった義経を美空が演じられないためでもあるが、美空本人の資質が作品を左右してしまった所為もあるのだ。

牛若丸は母が死んだと教えられて育ち、遊び相手の桔梗が子供らしく母親を自慢するのにも腹を立てるほどに母親の愛に飢えている(それどころか、剣を交えた弁慶が降参したとき、母のあるなしを尋ね、あると答えると「果報者よ」と乱暴を許してやるほどだ)。だから側近の手回しで実の母親の前で舞いを見せたとき、つい心が躍って「お母様」と呼びかけてしまい、気違い扱いされて追い出され、心に深い傷を負う。それが自殺行為だと気づかない牛若丸への思いやりだと聞かされ、初めて涙の対面を遂げた時も、支えてくれる部下たちと平家討伐に乗り出すと宣言し、いつまでも平和にわが子が生きてほしい母親と意見が合わず、母親を問い詰めるくらいだ。言ってしまえばひばりも得意な「母もの」映画のひとつに過ぎないのだ。

だからクライマックスは、義経の武勇談などには決してならず、危機に陥った義経のために衣食の面倒を見ていた、いわば母代わりの娘が彼の身代わりとして命を落とす愁嘆場になる。よって、義経の人生を知らない者にとっては主人公は単なるトラブルメイカーのエゴイストにしか見えない映画ができあがってしまう(まあ、普通の日本人なら物語の断片くらいは知っていようが、この映画の身の回りに犠牲を生む牛若丸は好感をもって見られないだろう)。

そんな訳で、これはずいぶん罪深い映画だ。幼馴染みを身代わりにして振り返らず、母の止めるのも聞かず戦場に出てゆく恩知らず息子の話になってしまったのだから。まあ、説話上の義経もいろいろな女を泣かせているのだから、間違いではないんだけどね。

(評価:★3)

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