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[コメント] ジョジョの奇妙な冒険 ファントム・ブラッド(2007/日)

ジャンプ漫画の映像化には、確実に推敲が必要だ。その結果の苦渋の90分に☆1プラス。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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正直、この映画は傑作ではない。

羽山淳一監督としても、要らぬ枝葉どころか必要な枝葉まで切り落とし、木が痛みに震える鼓動を聞かねばならなかったのはさぞ辛かったことだろう。しかしこれは、プログラム・ピクチュア制作には耐えねばならぬ作業だったはずだ。

名場面を切る。名台詞を切る。名擬音を切る(あの「メメタァ」や「ドッギャーン」とか言う奴だ)。いずれもファンには耐え難い、腹立たしい手術には違いない。しかし週刊誌→コミックス→映像と、観客に求められる物ははっきり違うと断言しておこう。ディオがエリナの唇を奪う。このシーンが映像なら、「ドギュウウウウウウウウウウン」なる擬音より、嵐のような回り込みが有効であることを作家は肌で判っているし、実際それは理想的効果を生んでいた。スピードワゴンがいなくなって怒るファンの気持ちは判る。だが、ここにいわば刹那的執筆法の週刊誌連載の掟が絡んでくる。彼はチンピラからジョジョの仲間になるが、まあ役に立つことは何もしていない。いわば解説者だ。そういう役目でありながら弄するレトリックの魅力で人気キャラになった。それは逆に言えば、映画においては監督が務めるべき使命だ。だから監督は涙をのんでスピードワゴンを切った。その苦渋は認めてやらねばなるまい。

タルカスやブラフォードが、声優まで決まっておりながら映画では最後の最後で雑魚キャラになってしまったのもよく似た理由からだろう。彼らはディオの前座であり、本来掘り下げるべきキャラではないからだ。その分、本来重要でありながら得てして振り返られないツェペリの活躍があったのは、選択として間違っていなかった筈だ。

ここでファンの要望を切るのは推敲者として当然のことである。『北斗の拳』のTV版「天帝編」を俺は評価するのだが、あれを原作通りに演出していたら、演出家は無能のレッテルを貼られていただろう。好敵手は多重人格者としか思えず、明らかに連載の途中でキャラ設定を二転三転させていったことが丸判りである。それは仕様の無いことなのだが、そこに鋏を入れるのが演出家の仕事である。

その点、この『ファントム・ブラッド』はよく作られていた。一見さんにもよく判る、一本の映画になっているというのは簡単に見えて、実に難しいことなのだ。

(蛇足) しかしエリナの声は、最近のこの手のアニメを観ている者としてビックラこいたもんだ。宮崎駿が嫌悪の色を明らかにするのは、まさに彼女のようなロリアニ声なんだろうな(笑)。ま、俺はそれでもいいんだけど。

(評価:★4)

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