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[コメント] リリィ、はちみつ色の秘密(2008/米)

多分10年前に観ていたなら、もっと受ける感動もあったように思える。だが米国黒人大統領が誕生した今では、ごく普通の少女の自立物語としか受け取れない。現代でなければ生まれ得なかった作品は、同時に現代では蜂蜜風味の口解けのいい作品としか写らないのだ。
水那岐

ダコタ・ファニングは次第に演技力を磨いて来ているし、相変わらずクイーン・ラティファの存在感と包容力は大したものなのだが、それだけなのだ。黒人女優が昔よりずっと魅力的な演技を披露してくれるようになったのは歓迎すべきことなのだろうが、アフロ・アメリカンの被差別とユダヤ人のホロコースト映画には、正直うんざりしてしまっているところに自分はいる(敢えて言ってしまえば、広島などの原爆映画にもだ)。こういった被害者意識の押し売りを続けるよりも、例えばアフロ・アメリカンの家庭の温かさといった題材を扱った映画のほうが、ずっと心を動かすのではないかという気がする。自分たちの美点を押し付けがましくなく語るならば、それを売り物にされても誰も傷つかないで受け入れてくれる。

もちろん黒人とて様々であり、ステロタイプな美点を称揚されても却って迷惑だろう。だが、最初はそれでかまわないのだ。完全な愛なんて存在しない、という劇中の言葉は、完全な理解などありえよう筈がないという事実に通底している。それならば自分の誇るべきを執拗に誇れ。事実は、その後をおずおずとついてくる、そういうものなのだ。

(評価:★3)

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