彼女の「大きさ」を前にすれば、性別を逆転させた平良とみ、平良進のキムジン王夫妻の怪演すらどこかに吹き飛ばされてしまう。とにかく元気百倍なのだ。一種倒錯した恋愛騒動の繰り広げられるクライマックスに於いて、マジルーとゆり子が恋愛関係に陥る、という凡庸な監督なら陥りそうなシチュエーションに逃げなかったのは、中江裕司の賢明さだろう。彼女らの関係はキムジンと人間の間柄であり、その深い谷を渡りうるものはない、という決まりごとをマジルーを描いた中江は根本的に理解していることが、ここでは嫌と言うほど示される。

そして忘れ去られ、人界を去りゆく神々についても悪戯に涙を誘わず、さらっと流してくれたのは嬉しかった。沖縄の土俗信仰も長く続くものでないことを中江は見抜いているが、それを度が過ぎたセンチメンタリズムで語らないところに中江の矜持がある。この作品はコメディだ。それを踏まえた上で、あくまでノスタルジーを強調して訴えないのがこの監督の上手さだし、逆にそれだからこそ、沖縄人でない観客の心にも考える余地を残す。これが監督を含むスタッフの潔さだ。

そのさりげない愛郷心と旺盛なサービス精神が、これを愛すべき作品に仕立てている。