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[コメント] 大巨獣ガッパ(1967/日)

「我々は、忘れていた素朴なものを思い出すべきだったんだ」そう。実に単純でプリミティブだが度肝を抜く撮影は、他社怪獣映画が忘れていたものではあるだろう。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本当に脚本家が言いたかった「素朴な」ものについては、たぶん彼自身やっつけ仕事として無理矢理締めくくった観が強く追及は酷だろう。そう言うのは山本陽子がガッパ母から学んだものが「タマネギを刻んだり、おしめを取り替えたりする平凡な女として生きてゆくこと」(苦笑)だったりする、何がテーマなんだか脱力してしまう展開だからだ。

しかし、本歌取りの元である『怪獣ゴルゴ』になかった女性キャラを描き、なおかつスクリーミング女優などでは決してない活躍を見せること、そして若者たちの正義感が年長者の論理を軽々と飛び越えてゆくあたりは、さすが日活と感心させられもした。まあそのあたりは演出の卓越性でもあり、最後の川地民夫らの締めくくりのセリフに頭皮を掻き毟りたくなる恥ずかしい文章を書き連ねた脚本家には、罪がないとは言えないが。

そのあたりの些事を忘れさせるのは、熱海や日光といった、輸出国で喜ばれるガッパの活躍場所だろう。我々日本人が見ても、温泉ホテルの大宴会場や名店街を踏みにじるガッパの足や、東照宮上空から睨みつけるガッパの表情は新鮮だ。クルマやジェット機のミニチュアの出来を見れば、安い予算額は容易に推し量れるのだし、他の怪獣映画ができない冒険をするのも映画の有様だろう。アングルからして数百メートルはありそうなガッパのハッタリ映像もその一つだ。また職人的こだわりを覗かせる、父・母・子ガッパの意匠の差別化も嬉しい。

ゴルゴ』の焼き直し的な人物配置が気になっても、この映画の怪獣は実験的にして生き生きした魅力を放っている。それは怪獣映画である以上「正解」と認められるものだ。いかにも東洋的なスタイル(ドドンゴキングギドラらと並んで、それは欧米映画界が逆立ちしても生み出し得ないものだ)を見れば、これは怪獣黄金時代の日本にして始めて創造しえたクリーチャーと納得できよう。

日活の怪獣映画、と言うものへの「期待」は、少なくとも裏切られない一作だ。

(評価:★4)

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