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[コメント] 大番(1957/日)

昭和二年。主人公の赤羽丑之助−加東大介が、宇和島から東京へ汽車で出て来る場面から始まる。加東は18歳の設定だ。東京駅前の交番で日本橋の蕎麦屋へ行きたいと云い、巡査の小林桂樹から、ずいぶん老けた18歳だな、と云われながら、道を教えてもらう。
ゑぎ

 日本橋の蕎麦屋で出前持ちをしている郷里の友人の兄−佐田豊を頼るが、蕎麦屋の親爺−田中春男が、株屋の小僧の口を世話してくれるのだ。こゝからスタートする加東の立身出世というか山あり谷ありの物語。シリーズ第一作だ。

 小僧の仲間には、仲代達矢中山豊がおり、働き始めて早々、加東が女性経験を聞かれ、語り始める回想場面がある。まずは、宇和島の段々畑の俯瞰カットが良いカット。家族は、歯抜けの谷晃が父、母は沢村貞子、下に妹もいる。少年時代の加東の役は、小川安三がやっている。17歳になった男子は集められ、三木のり平による酒と女についての授業がある。夜這いを「よばあい」と発音する。このシーンで、友人の太刀川洋一(蕎麦屋の佐田の弟)も登場する。加東が、狙うのは、駄菓子屋のオバサン−清川玉枝だ。昼間、清川にサインを送りに行く場面で、加東はクジに強い、という描写があり、抜け目なさ−株屋としての才能−の伏線となる。その夜、夜這いを決行する。清川はいつもの通り、豪快なオバサンだが、胸元がはだけて色っぽいのだ。

 タイトルの大番の意味は、株屋で初めに作ってもらった制服のサイズを指している。体が大きいので、大番、という科白がある。やゝあって、仲代が読んでいる雑誌の写真に、郷里の大富豪のお嬢さん−原節子の写真が載っていたことから、再度回想シーンに入り、故郷をあとにした理由が原節子へのラブレターと密接に関わっていること、彼女への恋慕が語られる。

 加東は物覚えが早く、株屋の皆から重宝されるようになり、あっという間に証券取引所の場立ちになる。取引所内のシーンは凄い活気と、セワしない感じがよく演出されており、取引所と株屋の間を全力疾走する加東のカットもいい。全編で、こゝの画面造型が一番良いと思った。

 そして、得意客の有島一郎に連れられて、加東が四谷の置屋へ行ったシーンで登場するのが、淡島千景だ。彼女が本シリーズのヒロインと云っていいだろう。この淡島と加東の出会いのシーンのカッティングで、とてもキャッチする正面切り返しがある。他にも、チャップリンさんと呼ばれる、東野英治郎演じる天才相場師との会食シーンでも、非常に印象に残る正面切り返しがあり、こゝぞ、というタイミングで意識して使われているのだと思う。

 さて、この後、東野の助言で投資した満鉄の株で大儲けし、淡島と散財したり、その次は五一五事件で株が暴落し、一文無しになったりと、上げたり下げたりのお話が描かれる。しかし、本作エンディング時点で、加東はまだ23歳ぐらいという設定で、全体の物語としては、まだまだ序盤という感覚を残して終わるのだ。尚、原節子は、加東が仲代と歌舞伎座で観劇する場面で、偶然見かける、というかたちで、科白も無しのワンシーンだけの出番。でも、なおさら、もっと綺麗に撮ってあげるべきだと思った。あと、佐藤勝の音楽がなかなかいい。彼らしい、『用心棒』っぽい音使いの部分もあるのに、本作の雰囲気と案外マッチしている。画面から浮いてしまわないバランスがいい。

#備忘でその他配役等を記述

・冒頭の汽車の中の車掌は山本廉、加東の前に座っているのは広瀬正一

・郷里のお大尽、森家の当主は柳永二郎、その娘が原節子、番頭が多々良純。原節子の婚約者は伯爵令息で海軍士官候補生の平田昭彦

・小僧となった株屋の飯炊き係?中村是好。株屋の主人は山田巳之助。他の店員で、瀬良明手塚勝巳加藤茂雄ら。

・加東が尊敬する証券会社社長に河津清三郎。独立した加東の業者仲間で、堺左千夫若宮忠三郎ら。

(評価:★3)

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