コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] がめつい奴(1960/日)

これも聞きしに勝る。ちゃんと再評価すべき作品だろう。開巻は空撮。大阪城、通天閣など大阪の風景を映し、ドヤ街にズーミング。舞台は釜ヶ崎だ。ドブ川の横を、少女、中山千夏が歌を唄いながら歩く。
ゑぎ

 中山千夏の唄う歌詞は「テコの人形は耳無し人形〜」という奇妙なもの。中山は、道を横切る際に、対抗で走って来る2台の車をすり抜ける。この運動神経にも驚かされるが、2台の車が正面衝突した後、木賃宿の面々が通りに出て来て、車のポンコツ部品を(ドアやタイヤを外して)強奪する、という見事な出だしなのだ。

 前半は、ちょっと複雑な設定と関係性を分からせるための説明科白も多いのだが、主人公のシカ婆・三益愛子と子供たち、実子の高島忠夫原知佐子、拾い子の中山千夏との関係や、三益の木賃宿(彼女は常に「ホテル」と云う)の住人間の関係、夫婦や姉妹、愛人関係が分かって来ると、あとは、あれよあれよという間に、最強のがめつさとブラックユーモアに完全に乗せられてしまうのだ。

 男優陣では、ポンコツ屋の森雅之が、もう一人の主人公のような扱いだが、がめつい、という部分の面白さでは、高島忠夫と藤木悠が抜きん出ている。中でも藤木は出番は少ないが、三益が殺されたと皆で勘違いする騒動の場面などでのブラックユーモア(トドメを刺せ、と云う)が実に可笑しい。あと、森繁久彌も三益の亡き亭主の弟、という役で登場し、相変わらず、よく動いて笑いを取るが、あくまでも脇役の位置づけだ。

 女優では、ヒロインに近い存在が、草笛光子。もともと三益の木賃宿の土地は、草笛の親のもので、三益は使用人だったのだが、敗戦後、焼け跡に勝手に住みつき、占有しているのだ。本作でも草笛はとても綺麗に撮られており、森雅之に狙われる。彼女が横丁の飲み屋の陰から通天閣を見るカットなど、憂い顔が情感たっぷりだ。ちなみに、この通天閣はミニチュアだろう。背景の星がウソっぽい。さらに云うと、ラスト近くの天王寺公園の場面で画面奥に見える通天閣も、スタジオセットに作った美術に違いないが、よく出来ている。

 お話は、草笛が持っている土地の権利書の行方に収斂していくのだが、草笛は森に預け、森はヤクザの山茶花究に売り、立ち退きを迫られた三益たちがどう対処するか、という展開になって行く。面白いシーン、良いシーンはまだまだ沢山あり、書き出すとキリがないし、ネタバレにもなるので、こゝいらで割愛するが、冒頭の自動車の部品強奪場面に呼応するように、終盤で、通りの死体を皆でよってたかって追い剥ぎし、死体がなかったことになる場面のブラックさが、最高だ。そして、ラストもまた、中山千夏の歌「テコの人形は耳無し人形〜」で終わる。全編通じて、三益愛子の一世一代のキャラ造型(特に目をむく表情!)が凄まじいけれど、中山千夏の存在(可愛い!)も素晴らしい。

#その他の配役を備忘で記述する。

 草笛光子の妹は団令子。彼女は高島忠夫と両想い。森雅之の内縁の妻は、安西郷子。ロシア人とのハーフという設定。髪が赤い。山茶花究の手下で、立ち退きを迫るヤクザが西村晃。森繁の借金取りで、天王寺公園で待っていたのは、多々良純中村是好。警察官の役で、加東大介中山豊ら。その他、「ホテル」の住人には、東郷晴子佐田豊天本英世田武謙三ら。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。