コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 恋文(1953/日)

兄の森雅之は、翻訳の仕事をしているが、翻訳では食えず、弟の道三重三のアパートに同居し、養ってもらっているようなものだ。道三重三は、いわゆる、古本の「せどり」で稼いでいる(劇中「せどり」という言葉は出てこない)。
ゑぎ

 兄弟2人がアパートの近所に散歩に出たシーン、橋の上のカットの後景に、通過する電車を見せ、その後、アパートの窓からの景色でも、電車が走るのを見せる。これは多分、模型の電車だと思うのだが、美術も凝っている。

 森雅之が、想い人の久我美子を捜す場所は、銀座服部時計店前、日比谷あたり、渋谷ハチ公前、新宿駅、日本橋などか。ハチ公前で、旧友の宇野重吉と再会し、彼の仕事を手伝うようになるのだが、それは主に米兵宛の、英語の恋文代筆業だ。同じ職業が、渋谷実の同年(1953年)公開『やっさもっさ』でも描かれている。代筆の依頼で来る女たちも豪華で、三原葉子安西郷子北原文枝清川玉枝は猫と一緒。田中絹代は横柄な年増女。ちょっと別格扱いで月丘夢路

 森が久我に再会するのは、井の頭線渋谷駅ホームからの列車内。沢山の乗降客も、よくコントロールされた、なかなかの演出なのだ。そして、本作の画面造型上の白眉は、森が久我をなじる明治神宮のシーンだろう。樹々の黒い影と、日が射す場所との対比。歩いて行く久我をずっととらえるカットが凄い。胆力のある演出ではないか。あと、久我の家の近く、川の両岸を、久我と道三重三がそれぞれ傘を差して歩くシーンも見事だ。

 ただし、エンディングへの持って行き方はイマイチこなれていないと思った。久我と道三重三が、日比谷公園から逃れ、金網のある道路脇へ出る場面。こゝの久我のアップカットと、車のライトの明滅する光を取り入れた演出は、気合いが入っているのは分かるが、長いし鬱陶しい。森と宇野の車中の場面で終わるのは、悪くないとは思う。ともかく、充分に才能を感じさせる田中絹代の監督処女作だ。

#備忘でその他の脇役、豪華な友情出演者たちを記述。

 冒頭、道三重三が朝帰りする際、一緒にいるのが、関千恵子。宇野の奥さんは高野由美。恋文横丁(劇中は、すずらん横丁)の古本屋に沢村貞子香川京子。横丁のとんかつ屋の女将は花井蘭子。森の母親は夏川静江。久我の父親は高田稔。久我が働くレストランの客で、笠智衆井川邦子が科白ナシで映る。レストランの支配人?は岡村文子。渋谷の飲み屋の前、流しに声をかけるのは佐野周二。久我の家の女中は、なんと、入江たか子だ。そして、終盤の日比谷公園の街娼の一人で中北千枝子

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。