コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 四月(1962/グルジア)

47分の中編映画。最後までサイレントのように科白無しで効果音と劇伴だけかと思ったが、後半の夫婦の口争いシーンから科白あり。でも字幕は全編無しだ。ちょっとこの演出は、エテックスみたい、と思った。
ゑぎ

 冒頭は、貧民街のようなカスバのような場所の俯瞰ショット。建物の外側から撮った、窓の向こうで体を鍛える男、窓を開ける男を何人か繋げる。これも窓の映画と云えるだろう。続いて、同じようなオーバーオールの男たちが街に出て来る。皆、椅子や小さなテーブル、服掛け(ポールハンガー)などを運ぶ。そんな中で、白っぽいワンピースの娘と、オーバーオールの青年が現れる。二人は建物の中に入って、廊下でキスしようとするが、人が現れ邪魔される。そのうち、なぜか喧嘩になり、逃げる娘を青年が追いかける。鏡台のような物を運ぶ男に路地(階段)を通せんぼされるところがあるが、この男は、後半の団地の管理人だろう。

 男女の追いかけ合いの終結は、階段の上の、木のある広場に座っている青年と娘の場面。結局、2人は手を繋いで画面左へ歩いて行く。この逆光ぎみのショットは絶品だ。イオセリアーニもよほど気に入っていたのだろう。後半でフラッシュバックされる。また、丘の上の大木のある場所でキスするロングショットもいい。後景に牛や豚がいる。

 こゝで場面ががらりとシフトし、後半は公団住宅のような団地を舞台とする。こゝも窓が活用される。窓の向こうの部屋には、冒頭の体を鍛える男もいるし、楽器を演奏するジジイたち、バレエの練習をする娘などが反復される。ちょっと『裏窓』的な窃視モチーフ。前半のワンピースの娘とオーバーオールの青年も結婚したのだろう、2人で団地に入居するが、家具が全然無い、広々とした部屋だ。2人がキスすると、電球が明るくなり、ガスコンロの炎が上がる、というファンタジックな処理。管理人の男が来て、椅子を持ってくる。こゝから家具が増えるシーケンスになる。クリスタルの食器も沢山保有する。途中、2人がキスをした丘の木が伐られらる場面も象徴的だ。どんどん何かが変わり出す。

 この後、2人は口喧嘩をし、最初に書いたように科白が付与されるのだが(字幕が出ないので何を喋っているか分からないが)、水道も出なくなり、灯りもつかない。ガスコンロの炎も出ない、というこれも象徴的な描写がある。あるいは、同一時間軸と思われるのに、2人の衣装をどんどん変化させるカッティング。そして、2人が家具だらけの部屋に座っているのを、手前に夫、奥に妻という構図の長回しで捉え、会話だけでなく視線も合わさない、というディスコミュニケーションを強調する。しかし、こゝから、右へパン及び移動して、壁の写真を映すのだ。これが実写に転換されて、2人が付き合い始めた頃の場面に戻る。まずは、前半と同じ衣装の娘を出現させ、次に青年も。序盤の街の中の2人のスローモーション。この処理には驚かされる。実験的な演出とも云えるが、やりたいことは良く分かる素直な演出だと思う。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。