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[コメント] 加藤隼戰闘隊(1944/日)

「撃ちてし止まむ」の標語が出る。冒頭は1941年(昭和16年)4月。撃墜王・加藤建夫の広東赴任から、その死(1942年の5月)までが描かれる映画。本作も非常にカッチリ作られた、クォリティの高い作品だ。
ゑぎ

 まずは空中戦等の飛行シーンが実に良く出来ていて、タイトルに恥じない。特撮の見事さの例として、ラングーンの空爆場面での、後景の爆撃と前景の逃げる人々の合成処理を指摘する声が多いのは当然とも思うが、例えば、マレー作戦の(山下兵団の)援護場面における、雷鳴の空を編隊が低空で手前に飛んでくるショットなんかは、実機かミニチュアかほとんど区別ができない造型だ(ミニチュアと思って書いてます)。あるいは、クアラルンプールでの空中戦の編集も凄いものだ。実戦の記録映像と本作のための実機での撮影ショットとミニチュアの特撮ショットを繋いでいると思われるが、この中でも、ヤシの木の向こうを模型の隼が飛行するショットが最も良い、というか戦闘シーンとして効果抜群のショットになっていると思う(ただし、時折挿入される、全くブレない固定の機銃ショットは要らないんじゃないかと思った。スタジオでの撮影風景を想像させる)。

 主人公の加藤−藤田進のキャラクターは、厳しさの中にも鷹揚さと茶目っ気のある人物として、とても魅力的に描かれている。サイゴンで買ったコーヒー挽きを取りだして部下たちに見せる場面の嬉しそうな表情。真珠湾のニュースを聞いて喜ぶ顔(こゝで寄るのはワザとらしいが)。シンガポールの場面で、部下の進藤中尉−中村彰に髪を切らせる姿。それを榎大尉−隆野唯勝が写真撮影する場面(藤田が自分の愛用はコンタックス、と云う場面)など。

 脇役について書いておくと、部下の中で一番目立っているのは、安場大尉役の黒川弥太郎だ。特に中盤までは、藤田と同じぐらいの比重で描かれるかと思ったぐらいだ。後半になって黒川が退場し、中村と陸野の出番が増える。また、パレンバン空挺作戦の造型も特筆すべきと思うが、こゝでパラシュート部隊を率いる灰田勝彦が、やっぱり人気者だったんだなぁと分かる、特別感のある使われ方だ。

 あと、本作においてもズームの使用が2か所ある。一つ目は敵機のショットでズームアウトし、藤田が撃ち落とすといった使われ方。二つ目は、彼の最後の出撃シーンで、部下に合図を送るショットのズームイン。また、山本嘉次郎らしいドリーやクレーンを多用した移動撮影も特徴だ。これらを見ると、『ハワイ・マレー沖海戦』との相似性を感じてしまうが、しかし、本作は銃後のシーンが全く無く、戦場の場面しか描かれない、という点と、主人公の死がエンディングとなる、というところで、『ハワイ・マレー沖海戦』とはかなり異なる感慨を持つ。

 終盤までは戦闘シーンの見どころは多いし、引き締まった構成でもあるが、最後は敵機との空中戦が省略され、イメージ処理と字幕の説明で終わる、といった見せ方は、いびつな作劇にも感じられるのだ。これで本作の目当ては果たせているのだろうかと思ってしまった。戦中の戦争映画を今見ると、私の見方の問題かも知れないが、思いの外、厭戦的に感じられることがあるのだが、本作にもその傾向を感じた。終わる前に「前線は待つ 鐵を飛行機を」という標語のような字幕が出るのも取ってつけたようだ。尚、本作も全編に亘って、非常に説明的な挿入字幕(インタータイトル)が多数使われている。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・加藤隊では、機銃が故障していることが分かっているのに飛ぶ、髭の河野秋武。悪天候前に、飛行を志願する沼崎勲も記憶に残る。

大河内伝次郎は、飛行集団長役と思われる。スピーチ場面の右には清川荘司、左は河津清三郎。2人は、加藤−藤田がデング熱で入院中の場面でも出て来る。志村喬と会話しているのは清川だろう。河津は藤田に静養するよう説得する。

・ラングーンの爆撃隊の部隊長は高田稔

木村功は終盤ワンカットだけ、エキストラレベルで映っているのを確認した。

(評価:★3)

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