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[コメント] ともしび(1954/日)

水辺。葦原。焼き畑や葦を運ぶ農作業と子供たちの登校風景が繋がれる。最初のシーケンスは中学校での、元校長で現村長−花澤徳衛の還暦祝賀セレモニー、銅像披露(除幕式)の場面。
ゑぎ

 式の最初は優秀な生徒2人の表彰で、まず、3年生の河原崎長一郎が表彰されるが、彼は県会議員の息子だ。もう一人は赤ちゃんを背負った2年生の女子生徒、マツヨ−松山梨絵子(後の藤間多寿史)。これらの生徒2人は当然ながら、本作全体でも重要な役割を担うが、教室にも赤ん坊を持ち込んで授業を受ける松山が良く目立ついい役だし、実にしっかりした演技を示す(いや、彼女だけでなく、子供たちは皆達者だ)。そして、銅像の除幕ショットが花澤本人(幕の下から実物の花澤が現れるイメージショット)という演出が見事に決まって、とても愉快なオープニングになっている。また、花澤のメイクの奇矯さも特筆すべきだろう。

 本作は、ビリングトップの香川京子をはじめ、有名な俳優が多数出演している作品ではあるが、プロット構成上の主人公を一人選ぶとするならば、上記除幕式の場面で、最初に笑い出すマサル−大橋弘ということになる。彼は前年の『花荻先生と三太』(鈴木英夫作品。矢張り劇団民藝のメンバーが多数出演)の三太役だった少年だ。あともう一人あげるならば、一番貧乏で教科書を買うこともできない生徒、センタ役の平田洪太か。このセンタの姉が香川だ。ちなみに、香川の登場ショットは、除幕式の場面の途中、唐突に、葦を運ぶ香川と弟のセンタがクロスカッティングされるショットだ(センタは家業のために学校を休んでいるということも示している)。このショットは、後景の土手に荷馬車が小さく見える素晴らしいショットでもある。

 一方で(本来はこちらを最初に書くべきかも知れないが)、全編を通じて本作の精神的支柱とも云うべき存在は、マサルやセンタ、マツヨら2年B組の担任の先生(最初の担任)−内藤武敏だ。彼は前半で他校へ転任してしまい、その後、生徒たちの前には現れないのだが、後半も生徒の回想シーンで何度か登場するし、彼の明朗さ(ちょっと過剰だが)と良心が、生徒たちに受け継がれているので、本作全体の明度が維持されていると云っていいと思う。

 先生たちでは、現校長の加藤嘉は全くの日和見主義者で村長の御用聞き。さらに、荒木伍長と呼ばれる澄川透は校長や村長の腰巾着。澄川と、内藤の後に2Bの担任になった増田順二は、生徒の頭をバシバシはたく、現在の視点だと酷い暴力教師だ。もう一人、高橋昌也も事なかれ主義に見える。彼らに対して教頭の織田政雄はおとなしく、城久美子も声を上げることはできないが、この2人は心の中では、内藤の方が正しいと感じている、ということは見て取れる造型で、バランスを取る。さらに、増田も澄川も、終盤になって子供たちが声を上げたことで、若干の変化の兆しが描かれるというこの描写の塩梅もいい。

 画面造型については、全く安定したショットの連続で、教室内や校庭のシーンなどでの滑らかなドリー移動の多用が特徴だ。あるいは、子供たちが村役場の転写版(ガリ版)を借用してビラを作る場面では、窓外の風景に、汽車が映りこんでおり驚かされたのだが、村長室での花澤と加藤の会話シーン(保安隊志願者への教育や、拡声器の調達費は子供たちに葦簀・ヨシズを作らせて、その売上を当てるという会話をする場面)でも、窓外に汽車が走るのだ。これらの画面造型は、大手映画会社の作品とほとんど遜色のない品質だと感じた。あと、スター女優、香川京子の扱いについて。確かに思いの外短い出番ではあるけれど、咳が出て寝込んだあと、弟センタに母親の思い出と汽車の話をする場面は、全編でも最も感傷的な見せ場になっているし(人によって好悪はあると思うが)、矢張り、その美しさは際立っており、尺は短くとも、とても目立つ扱いだと私は思う。

#備忘でその他の配役等を記述する。

・河原崎長一郎の父親の県会議員は永井智雄がやっている。中村伸郎ではない(中村は出ていない)。尚、河原崎はクレジットでは河原崎統一と記載されている。

・クレジットには、河原崎労作の名前もあり、後の河原崎次郎。2Bの中に、彼らしき生徒がいる。

・マサルの母親は戸田春子。センタのお祖母さんは於島鈴子北林谷栄ではない(北林も出演していない)。

・先生の一人、城久美子は家城巳代治夫人、家城久子だと思われる。

(評価:★4)

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