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[コメント] アル中女の肖像(1979/独)

凝ったクレジットバック。スタフの名前には写真が添えられている。千鳥格子の布の切れ端が付けられている一枚は、劇中登場する3婦人の演者のクレジットだろう。クレジット開けは赤い生地が揺れる接写ショット。これは女性のスカートだったと分かる。
ゑぎ

 廊下を歩いて行く赤いドレスの後ろ姿。ナレーションは作者(ウルリケ・オッティンガー)か。この赤いドレスの主人公のことを、絶世の美女だと云う。これからベルリンへ旅立つ。主人公は、航空券を買うシーンも手だけのショット。片道切符。飲酒が目的の旅だと云う。

 次にパンナム機が着陸するところを撮った長回し。これがなかなかいいショットなのだ。空港で主人公の女性−タベア・ブルーメンシャインの顔が初めて映るが、確かに綺麗な人だ。本作は、この主人公がベルリンを舞台にして、ずっと酒を飲む場面が綴られるのだが、特にストーリがあると云うワケでもなく、ほとんど奇矯なイメージの羅列と云うべきシロモノだ。しかし、この手の作品としては良く出来ていると思う。まずは、彼女がまとうオートクチュールっぽいゴージャスな衣装の、まるでファッションショーと云ってもいい部分に目をひきつけられる。赤、黒、黄色、エメラルド、シルバー。終盤のシルバーのドレスは、後ろから見るとお尻が丸見え。また、シーンのつながりを無視して衣装を変える。継続した時間軸のシーンと思われるのに、衣装が変わっていることが数回ある。

 主人公以外で各シーンに出たり入ったりする登場人物としては、ショッピングカートに全財産を入れている女性のルンペン−ルッツェがいて、この人が主人公と一緒にいるシーンが一番多いだろう、ラストまで絡む。良い役。主人公と一緒に入浴するシーンもある。こゝでブルーメンシャインは胸を見せる。他にも、皆、千鳥格子の衣装と帽子という出で立ちの3人連れの婦人がいる。空港シーンでは、彼女らの役名が「良識」と「正確な統計」と「社会問題」とアナウンスされる。それぞれ、役名を体現するようなお喋りを続けるのだ。ちなみに「良識」を演じているのは後に『フリーク・オルランド』でオルランドを演じるマグダレーナ・モンテツマだ。あと、低身長のオジさん、この人も空港シーンからずっと出てくる。この人だけは、現実的な役割が希薄で、夢の中の人みたいな感覚。

 そして、わずかな出番しかないが、バーで替え歌を唄う歌手、ニナ・ハーゲンが強烈だ。最初の歌唱は「マイ・フェア・レディ」のナンバー「君住む街角」などをダーティな歌詞に替えて唄う場面。もう一つは、ドラムソロをバックに、ベルリンについての歌を唄う固定ロングショットのワンシーン・ワンカットだが、一瞬、主人公が唄ったのかと思ってしまった。やはりこの場面(ワンカット)が本作の一番良い部分かも知れない。

 それと、全編に亘って、水や酒が窓とか鏡にかけられる演出が多数有り、同じように、グラスが投げ捨てられ割られたり、物や食べ物が、ぶっちゃけられる、といった破壊や破棄のイメージシーンも無数に有り、画面にアクセントを付けている。主人公は結局ラストまで一言も喋らず、パントマイムと表情の表現で終始する。エンディングは、ガラスの廊下(横にはガラスの壁)。ピンヒールの足が、ガラスを割りながら歩いて行く後ろ姿。ファーストカットの後ろ姿と対比の効いたイメージで、良いエンディングと思う。

(評価:★4)

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