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[コメント] 女妖(1960/日)

小説家の船越英二を主人公にして、3人の女性との関わりを描いた3話のオムニバス作品。それぞれ、山本富士子野添ひとみ叶順子がヒロインだ。
ゑぎ

 一話目は山本富士子編であり浅草編。雷門の「金龍山」の額や、風神雷神像を丁寧に見せて、船越と山本との出会いの場面になる。2人が初めて会話するシーンで、山本は、先生のファンです、と云う。顔も知られる人気作家なのだ。この時点から、山本の笑いながら喋る独特の口跡が弾ける。2人は店に入って昼間から飲み始めるが、こゝで、店の表のチンピラ風若者−入江洋佑が山本に合図を送るので、てっきり美人局かと思ってしまった。次に酔った2人が金魚掬いをするシーン。なんと山本は金魚の桶に全身でハマるのだ。着物姿でだ(劇場内かなりの笑いが起きた)。私はさらに怪しいと思う。時間は経過し、浅草寺で休憩している際に、深夜2時と云う。

 2人は小笠原まりこが客室係の安ホテルに入って、最初は大人しく会話しているが、船越は、山本のうなじを見て興奮し、迫って押し倒す。この場面の山本の色香はもうタマランです。結局一夜限りの関係だが、2人は魅かれ合い、船越は今後も連絡して欲しいと名刺を渡すのだ。この後の詳述はしないが、山本の正体を知った船越は、尻ごみをしたと私は解した。後日、身辺整理をした山本が名刺の住所−本郷を訪ねる場面で一話は終わる。結局、山本は、船越と会うことはなかったのだと私は思う。二話と三話で出て来る船越の仕事場は、本郷ではなく、東京タワーに近い、芝あたりのマンションの部屋だ。きっと山本を避けて、本郷から引っ越したのではないかしらん。しかし、一夜限りの関係をあてにして、プレイボーイであろう人気作家のことを信じ切って、行動する山本がウブ過ぎて、ちょっと白ける気もした。

 二話目は箱根、大涌谷のロープウェイの場面から。黄色い服、黒い帽子の女、野添。ロープウェイ駅で、船越が注文したコーラを入れたグラスに映った野添が、ファンです、と云って近寄って来る。船越にくっついて小田原から熱海へ一緒に行くのかと思わせて、列車の発車間際、東京へ帰ります!手紙を書きます!と云って去る変な女なのだ。後日、船越に手紙が来たのだろう、その辺りは省略され、高井田駅を降りる船越。野添のアパートに向かう。これがボロボロの建物で、誰も住んでいないみたい。物陰に隠れて現れる野添。この挿話、野添が隠れる演出が多い。野添は、船越の野獣性を、確かめたかったと云い、キスされかけると、胸の病と云う。ウイスキーを作る際も、野添は船越から隠れる。また、野添のラストシーンでは、彼女は公衆電話ボックスに入り電話するのだが、それは警官から隠れるシーンでもあり、この趣向は一貫している。

 三話目は、叶順子のいるクラブのシーンが導入部。こゝの移動撮影のシーケンスショットが、全編でも際立っている。叶は編集者の永井智雄の仲介で、船越の仕事場を訪ねてくるが、パパでしよ、と云う。叶は、船越が若かりし頃関係した女性の娘なのだ。二人はすぐに、仲の良い親娘になる。この挿話は画面的には面白い処理が結構ある。例えば、汽車の中の船越と叶のシーンで窓外にネオンサインを走らせる画面を見せ、フラッシュバックして叶の母親−八潮悠子と船越が汽車に乗っているショットに転換するのだが、窓外のネオンサインは継続している、しかも、ドラムを回してネオンサインを回転させるような、アナログなカラクリなのだ。他にも華厳の滝、日光東照宮、中禅寺湖畔などのモンタージュが独特で、船越と叶が手を繋いでグルグル回転する短いショットを挿入したり、滝を横に映したりする。また、伊豆のホテルのシーンで、船越が入浴中のバスルームに叶が全裸で入って来たり(体つきがお母さんとそっくり、と船越が云う)。同じ布団で二人で寝る、といった、ちょっと倒錯したイメージも目を引くところだ。

 ただし、全体に美術装置はチープに感じる。例えば、ほとんど窓外の風景は書き割りだろう、伊豆のホテルの窓からの景色や、船越の仕事場の窓から見える東京タワーのある景色も、チープな感覚に繋がっている。それと、私としては、最後に山本富士子を再登場させるようなことになれば嬉しいなぁと思いながら見ていたのだが、そんなことはしないワケで、ちょっと物足りない部分も多い出来だと感じる。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・船越の連載小説の編集者として森矢雄二

・一話で出て来るヤクザの親分は高松英郎。他のヤクザで清水将夫杉田康森田学阿部脩(体のでかい髭の男)。山本富士子の資産管理をしている男は花布辰男

・二話で出て来る刑事に、伊東光一中条静夫がいる。

・三話の叶の友人(隣人)役は南左斗子

(評価:★3)

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