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[コメント] 樋口一葉(1939/日)

蓮のある池のショットでクレジット。とても綺麗なレタリングだと思った。クレジットの時点で既に丁寧な仕事だと感じさせる。冒頭の雨のシーンもいい。ぬかるんだ道を歩く下駄と着物の裾で、二人の女性が別々に歩いていることを示す。
ゑぎ

 二人の女性の一人は山田五十鈴で主人公。もう一人(歌塾で同門の女性−渋谷正代?)と道で会い、会話するが、「先生は留守ですよ」と云われる。「預け物をしたら、一緒に帰りましょう」と。山田が先生の家を訪ねると、先生−半井桃水−高田稔が出て来る、という出だし。これで、居留守を使われた同門の女性に嫉妬される、という見せ方、実に上手い。

 タイトルから樋口一葉の伝記映画なのかと思っていたが、子供時代などは完全に割愛され描かれず、一葉が小説家としての意欲を漲らせる時代、約2年間ぐらいに絞って描かれている。それは、ウィキペディアの情報と照らし合わせてみると、半井桃水との関係を噂され始めた1892年から、吉原遊郭の近く、下谷竜泉寺町で荒物屋(雑貨屋)を開き、市井の人々と交流する1894年ぐらいまでを指している。

 ということで、本作は、樋口一葉が雑貨屋を営みながら見聞きしたエピソード、後に小説の題材になったという体(てい)のエピソードで、かなりの部分が構成されており、「十三夜」「大つごもり」「たけくらべ」の中の登場人物が、ばらばらに組み合わされたようなかたちで登場し、ラストに向かって収束する。この構成はとても見応えがある。

 例をあげると「十三夜」からは、金持ちに見初められ結婚したが、飽きられて邪険にされ、家出をしてきた、お関−宮野照子。「大つごもり」から大店の惣領だが放蕩息子の石之助−北沢彪。そして「たけぐらべ」の中の人物では、姉が花魁で、いずれ遊女になる運命の美登利−高峰秀子と、隣町の不良・長吉−大村千吉が登場する。この中でも、美登利−高峰が、廓(大黒屋)で見習いが始まる、ということで、遊郭の中に入っていく場面が、厳しくていい。「たけくらべ」でも、こゝまでは描かれていないシーンだ。高峰が最後に、子供たちの方を振り返り見て、ニコッとする。そこから横移動して、檻のような鉄の柵を示すのだ。

 全体に、各エピソードを細かくシーンにばらして、フェードアウトでキビキビ繋いでいる。またカット尻が短いのも特徴で、それもあって展開が早く感じられる。また、ここぞというタイミングでのドリー寄りも効く。あるいは、冒頭は雨で始まったが、ラスト近くに、山田が高田を訪ねるシーンでは、綿のような雪が降っている、というのも良く出来ている。1896年に24歳で夭逝した樋口一葉の、最期の時期も描かない、という選択も本作の良いところだろう。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・山田の妹くに子は堤真佐子。妹も別嬪だが姉の方が上玉みたいな会話が何回か。姉妹の母親は水町庸子か(調べると27歳ぐらいだが)。

・歌塾の主催者、中島歌子役は英百合子。お関−宮野照子も同門という設定。

・北沢彪が若旦那の店は、山田の荒物屋の仕入れ先の問屋。番頭は深見泰三。北沢は、山田に小説のファンと云う。北沢が遊ぶ飲み屋?の酌婦に清川虹子音羽久米子

・流しの浄瑠璃語り?(太夫と呼ばれる)で、沢村貞子。沢村の妹に椿澄枝

・山田に何かと便宜をはかる車引きに嵯峨善兵

・小説家仲間の2人、大川平八郎河村弘二が、小説を書くように強く勧める。

(評価:★4)

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