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[コメント] 暗黒街の美女(1958/日)

前作『裸女と拳銃』までが清太郎名義なので、文字通り鈴木清順初期作。後年の前衛精神というか遊び心はまだまだだが、スタイリッシュに決めて見せる。冒頭の夜の道の表現、下水道の中のなんとも気持ち悪い美術なんかからキャッチする。
ゑぎ

 それに、クレーンを使った移動撮影のカッコよさも目立つ。横浜港の埠頭近くに着いた自動車のカット。俯瞰から下降し、芦田伸介らが降車したのを見せ、今度は上昇する。あるいは、ダンスバーの屋内ショットでもクレーン撮影がある。

 さて、新宿と横浜が主な舞台。高品格が任されているバー・クラブは新宿か。高品のボスの芦田がいるのは、横浜のニュートルコという特殊浴場。主人公は、水島道太郎で、刑務所から出所してきたばかり。芦田らとは昔の仲間だ。もう一人の昔の仲間で、今は屋台のおでん屋をやっている安部徹。その妹の白木マリが、タイトルロールと云っていいだろう。彼女はヌードモデルをすることになるが、画家役の近藤宏も良い役で、スジにからんでくる。そして、彼らを追う刑事役で二谷英明。お話は、かつて盗んで隠したダイヤモンドの争奪戦だ。

 ラスト近くのクライマックスは、水島と白木が捕らえられ、ニュートルコのボイラー室に閉じ込められるシーン。燃料の石炭をかき出して逃げようとする、なかなかのサスペンスシーンだ。閉じ込められたまゝ、ほったらかしになるのかと思っていたら、深江章喜ら悪役たちも入って来て、銃撃になる。しかし、もっとも印象に残るシーンは、こゝ以上に、中盤の死体安置室の場面だろう。ワケあってダイヤを飲み込んでしまった男の死体。その腹の中にあるダイヤモンドを、ナイフを使って取り出す、というシーンで、これを近藤宏が行うのだ。近藤は「ダイヤは炭素だから燃える」という(つまり、火葬場へ送られるまでに取り出さなければならない、ということ)。画面としては、腹を裂く部分は割愛されているが(ま、当時なら当たり前でしょうね)、観客はイマジネーションだけで、興奮させられてしまう。ただし、血液一滴さえ映さず、血だらけの手だとか、後始末だとかも含めて、完全に割愛されているのは、ちょっと寂しいと思ったが。

#備忘

・近藤宏の工房にはマネキン作りの職人がおり、一人は青木富夫

・二谷の上司、主任刑事は山田禅二

・白木が仲間の女たちに会うのは西武新宿前。カツアゲのシーンで、新宿の都電、停車している電車も走る電車も映る。

・水島が白木を連れて行く川岸は、多摩川か。昔、競輪で負けた時、お前の兄貴とよく来た、と云う。

(評価:★3)

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