[コメント] 東京の恋人(1952/日)
原は銀座の街頭で似顔絵を描く絵描き。三船はイミテーション専門の宝石屋だ。三船が作った偽物ダイヤと、本物のダイヤの入れ替え騒動でお話は始まる。(これがメインのプロットかと思っていると、脇スジになっていく。)
原は並木ビルという名のビルの前で絵を描いているが、ビル内にあるパチンコ玉を作る会社の社長が森繁久彌だ。隣には宝石店があり、十朱久雄と沢村貞子がやっている。森繁が愛人の藤間紫に50万円のダイヤを買ってやるが、沢村のクシャミが元で、ディスプレイ用の偽物と入れ替わってしまうのだ。森繁はいつもの感じで安定した面白さだが、藤間紫もいいコメディエンヌだと思った。森繁の妻、清川虹子からの電話に出るシーンなんて可笑しい。清川が森繁の事務所へやって来て、大暴れするシーンは、ちょっとやり過ぎか。
脇スジという感じで始まるが、メインのプロットになっていくのが、原と同じアパートに住む、杉葉子を中心とするお話だ。杉葉子は銀座の街娼(これには驚かされる)。夜の銀座。ローキーの中、歩く背中。街頭撮影とスタジオセットの繋ぎが見事だ。杉は、雨の中歩けなくなり、通りかかった三船が助ける。風呂屋から連れ出した医者が柳谷寛ってのが笑わせる。こゝから病気の杉葉子を、原や靴磨きの少年たちと三船で、いろいろと面倒をみることになるのだが、杉の田舎から、岡村文子演じる母親が上京することになって、三船が杉の夫のフリをするハメになる。三船の偽亭主ぶりが、かなり笑わせるのだ。しかし、本作の三船は「偽物」を象徴しているとも云えるだろう。偽のダイヤの制作者が、偽の夫になるのだ。あるいは、靴磨きの少年が、箱型カメラで、銀座の通りを撮影した写真(二重露光で、たまたま杉と三船が一枚に収まってしまった写真)の扱いも、真偽のモチーフとしてよく機能している。
ラストは、帰郷する岡村を上野駅で見送った後、原と三船と靴磨きの少年たちが、モーターボートに乗って隅田川を下る、という明朗なシーン。走るモーターボートと、いまだダイヤを探している森繁と清川が乗った小舟を絡めて終わるのだが、ダイヤをめぐるプロットと、原、三船との連携は、イマイチ雑駁な感覚を持ってしまう。
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