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[コメント] 柿の木のある家(1955/日)

小豆島。冒頭「真ん中馬糞(まぐそ)」と囃す歌。木の上の男の子(次男)が7人兄弟の真ん中のヒサノのことを唄っている。このヒサノ役の子役が、初見でとても可愛いと思う。一人クオリティが違う。
ゑぎ

 続いて柿の木の歌。柿の実なぜ赤い、ほっぺが赤いから赤い、夕焼けが赤いから赤い、みたいな歌。庭で、お祖父さんの高堂国典とヒサノたちのお母さん−村瀬幸子が、仕事をしている。家の中には、長女の桑野みゆき(13歳頃。勿論こちらも可愛い!)。長男は働いて夜学に通っている。お父さんは小杉義雄で漁師だ。ヒサノの下に3人の妹たち。郵便屋さんが東京の伯父さんからの手紙を持って来る。1人子供が欲しいという話なのだ。桑野がワタシが行くというが、もう奉公先が決まっている。次男は嫌がる。やっぱりヒサノか、ということになる。

 翌日か、柿の木の苗を東京へ持って行きたいと云うヒサノ。それがいいと云う高堂の笑い方。日が過ぎて、船で上原謙が来る。村瀬の兄か?ということは、小杉は養子ということか。上原は優しそうに見える。しかし、次男が渡したヤギのミルクは飲まなかったように思えた。

 上原は会社の重役で、東京駅には社用車が迎えに来る。また、東京の上原の家は、女中(ねえや)のヤス−松井博子がまず出迎えに出るような家だ。奥様は高峰三枝子。ヒサノを見た時の、その微妙な表情。後で上原に、可愛いと思えるようになるかしら、と云う。ヒサノが通う小学校は代田小学校。友達では、隣人の(矢張り裕福な)ヒサコと貧乏なミチコ。ヒサコの自分勝手なキャラが面白い。さらに、ヒサコの母親−春日芳子の、ざあます言葉と、ヒサノが来てから不吉なことが続くと高峰に云うキャラもいい。

 高峰のちょっとイジワルなキャラも周到に用意される。唐突に小杉と桑野が上京しているシーン。大阪の奉公先を断って東京に変えた。保証人になって欲しいと上原を頼って来る。高峰は、今が大事な時だから、ヒサノに会わないでね、と桑野に云い、帰りの車で、愚痴をこぼす。また、ミチコが引っ越すため、ヒサノは、犬(スピッツ?のテル)を譲り受けるのだが、高峰は、汚い、お母さんは犬が嫌い、と云う。こゝも高峰の後半の成長のお膳立てなのだ。ちなみに、ヒサノは犬を返しに行くが、結局返すことができずに困っていると、ヤスが来て、よござんす、奥様に内緒で物置で飼ってあげましょう、と云う。

 後半になって、高峰はヒサノに愛情を持ち始める。いや、単にヒサノへの感情の変化が描かれるだけでなく、明確な高峰の成長譚の側面がある。それが顕著なのが、犬(テル)の出産騒動のクダリだ。最初、高峰が、ワタシが病院に行き、始末すると云う。獣医は小林十九二。高峰はテルのお腹をさするように云われ、いやいや従うが、途中から顔つきが変わる。結局、産まれた3匹の仔犬は、全部家に持って帰るのだ。ヒサノにお母さんが悪かったわ、と云う。

 そして、本作の本当の面白さは、上原の造型にあると思う。島に迎えにきた時は、いい人かと思わせ、東京の家に着いた際は、高峰が嫌な表情をするが、これは上手いフェイントだったのだ。後半になって、上原が彼らしい酷い男の役だと分かって来る。部下の扱いも酷いもので、この男が重役の会社は、そりゃあ傾くだろうと思わせるキャラだ。ラストまで上原がケロッとしているのも腹立たしいが、私はこの太々しい作劇が、かえって面白いと思った。上原のキャラが許せなくて、本作全体が嫌いだと思う人がいることも想像に難くないが。

(評価:★3)

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