コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 花の中の娘たち(1953/日)

タイトル後、清流イメージの俯瞰ショット。川底の丸石が透けて見える人工的な川に、白と赤の小さな花びらが流れる。BGMは立派な音楽で、ハリウッド映画の序曲のよう。クレジットが欠落しているのだが、こゝに入っていたのだろう。
ゑぎ

 開巻は多摩川の鉄橋。神奈川県と東京の県境プレートが映る。列車は小田急線だ(鉄道に疎い私は、後のシーンで小田急と分かった)。この当時、多摩川には人が渡れる橋は無く、建設中である、というナレーションが入る。舞台は登戸辺りで、建設中の橋は、多摩水道橋のことか。まずは、婚礼の風習が紹介される。花嫁は嫁ぎ先の家の前で、火の付いた藁を踏んで通る。また、表玄関から家に入るのではなく、台所口から入る。これを、仲人だろうか、東野英治郎が仕切っている。見物している近所の娘たちの中に岡田茉莉子がおり、恋愛結婚なら、こんな婚礼なんかせずに、さっさと新婚旅行に行く、と云う。同じようにこの様子を見ていた小林桂樹たちが、自分の時は、台所じゃなく表から入れてやる、と云う。

 本作は東宝初のカラー作品ということで、まだまだ試行錯誤中と見えて、岡田のメイク等かなり不自然な色遣いだ。全体に赤茶系が目立った画面。岡田は田舎娘という設定なので(当時は多摩川を越えると文化が異なるということが強調されている)、それほど違和感が無いというか、私は、味わい深い色遣いだとも思った。

 岡田の家は梨農家で、父親が小堀誠、母親は本間文子、姉に杉葉子がおり、杉は東京の外資系ホテルで働いている。杉が梨園の横の道を歩くショットが何度かあるが、随分と垢抜けして見える。というより、その八頭身のモデル体型が目を引く。また、小林桂樹は、近くの農家の次男坊だが、杉に気がある。しかし、杉には、勤務先の電気技師−小泉博という恋人がいる。一方、杉の妹、岡田の方は、隣家(東野の家)に居候でやってきた東京の音大生−平田昭彦のことを想うようになる。

 岡田が、杉の勤める丸の内辺りのホテルを訪ねるシーンでは、大都市の喧噪を現すような音楽がかかるが、ハチャトリアンのよう。岡田はモンペ姿に赤い靴下、下駄履きだ。ホテルのロビーを通る際に、ボーイに下駄を咎められ、脱いで手で持って、杉を捜す。これ以降も、ホテルの場面は、ほとんど人物のフルショットばかりだ。メイドが椅子に座っている詰所のシーンなども引いたショットで、ちょっとサイレントみたいと思った。あるいは、この映画、フレームサイズがイマイチな場面が他にもある。梨園で作業中の小堀と岡田のところへ、土地を売って東京へ行くと挨拶に来た隣人の顔アップが、全編で一番のクローズアップで、とても違和感を覚えた。このあたりのコントロールが上手くいっていないと思う。

 さて、タイトルにある「花」について。岡田と小林が梨園にいる際に、平田がやって来て、これは何がなるのですか?と聞き、小林が西瓜だよ、と冗談で返す場面。岡田が梨の花は5月、と云うので、我々観客は、あゝタイトルは5月の梨園で画面化されるのだな、と予期し、そのシーンを楽しみに待つようになる。ただし、5月を待たずに、季節の変化に合わせて、桃、菜の花、桜、ハクモクレン(コブシ?)といった花を背景にした岡田や杉のシーンがある。

 元々両親(小堀と本間)は、長女の杉に婿養子として小林を迎える想定をしていたのだが、杉が小泉を連れて来たものだから、次女の岡田の婿として、小林を考えるようになる。それを知った岡田が、死ぬといって家を飛び出し、帰って来なくなるのだが、岡田が小林に対して「あたいの婿さんにならないで!」みたいな懇願をする場面が可笑しかった。岡田と杉は、ほゞ同等の割合で描かれているように感じるが、矢張り、良い場面が多いのは岡田のように思う。

#備忘でその他の配役などを記述。

・巡査の役で中村是好。ワンシーンのみ登場。

・挨拶に来た小泉に、本間は「うちが二十世紀を初めて作った」と云う。気になって調べたが、日本で初めて二十世紀を作ったのは、千葉県松戸市のよう。

・杉が勤めるホテルの支配人?は、村上冬樹。長逗留している客に立花満枝

・「桃満開、小田急向ヶ丘遊園」というポスターが映る。

・小林と堺左千夫が土手下で会話する場面。堺は保安隊(陸上自衛隊)の制服姿。土手上を歩く夫婦が「農家は呑気でいいなぁ」と云う。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。