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[コメント] 日本暴行暗黒史 異常者の血(1967/日)

タイトルは随分と大袈裟なものだ。本作はある血縁の歴史を、明治、大正、昭和初年、昭和19年、そして現代と5つの時代を通して描いている。
ゑぎ

 冒頭は現代。刑事のモノローグで始まり、彼が全編通じて要所で登場しエンディングも締めるのだが、しかし、位置づけとしては狂言回しだ。主人公は野上正義、ヒロインは山尾啓子という人で、野上は、現代、明治、大正、昭和初年でそれぞれ異なる人物を演じ、山尾も明治、大正、昭和初年、昭和19年のエピソードで4役を演じている。こう書くと、低予算のため役者を使い回した貧相な出来かと思われそうだが、いや、予想に反して実にしっかりと作られている。

 例えば、冒頭近く(現代の場面)、道を上半身裸で走る女性のショットの途中、急激なズームアウトが使われて(これはこれで、なかなかショック効果のある演出と思う)、以降もズームを使い倒す映画かと思ったが、以降ズームの使用は、ほゞ無い。代わりに、移動撮影はふんだんに使われている。少し例をあげると、明治時代の導入部では厩舎の中を横移動し、馬房に縄で繋がれた野上を見せる。あるいは、明治時代の戦勝祝い、昭和初年の労農運動の勉強会(講師は山谷初男だ)、昭和19年の出征の宴といった場面では、屋外から家屋の広間の風景にドリーで寄っていくカメラワークが反復される。

 また、大正時代パートの中の、野上とその妻の夕食シーンでは、普通の切り返しでなく、180度のカメラ位置転換を行う。こういう手間暇のかかる(照明を作り直さなければならないような)演出を意識的に選んでいる。他にも、明治、昭和初年、昭和19年の各パート内で、いずれも川辺のロケーション(川、川岸、土手上)を活かした場面があり、非常に考えられた構図のロングショットがある。これらはとても良いショットであり、しかし、審美的に秀でているだけに、矢張り、手間が(云い換えるとコストが)かかっているはずだ。

 そして、全編で最も驚かされる部分(人によっては非難の対象にするかも知れない部分)は、労農運動(革命)と自由恋愛を説く山谷初男が山尾を押し倒す場面の後、草むらで野上と山尾が抱きあう長いヌード無しの固定ショットだろう。これがどう考えても不自然なほどの長回しで、途中で喘ぎ声のアフレコも消え、BGMだけになる。さらに長いディゾルブで川の景色へ繋ぐという処理なのだ。まるで観客を挑発しているかのようだ。特にポルノ映画としての賛否はあるだろうが、私は素直に映画として良い選択だと感じる。あと、本作もパートカラー作品だが、基本はモノクロで、人物の情動に合わせて、こゝぞというショットのみカラー画面となる選択も納得できるものだ。極めつけはラストカット。

#備忘でその他の配役等を記述。

・現代パートの刑事役と、明治パートの第二奇兵隊幹部の役を山本昌平の2役としているサイトがあるが、私には現代パートは別人に見える。花家五郎か。

・冒頭の列車の中で刑事が出会う同郷の男は足立君と呼ばれる。足立正生か。

・現代パートの導入部、上半身裸で道路を走ってくる女性は新久美子。明治パートの山本昌平の妻役は伊知地幸子。川辺で乱暴されるのは一星ケミか。

・大正パートで野上を引いていく巡査は小水一男だろう。昭和19年パートの出征兵士役は若き久保新二。オダギリジョーみたい。

(評価:★3)

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