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[コメント] ミカエル(1924/米)

主人公の画家ゾレ、ベンヤミン・クリステンセンの邸内を中心に、ほとんど屋内を舞台とする。サイレントらしい天井の高いスタジオセットを、ロングショットで見せる。その分、美術装置には金がかゝっている。沢山の絵画や彫刻。大きな、人間の頭部の彫像が目立つ。
ゑぎ

 タイトルロールのミカエルは、画家ゾレの専属モデルで養子。登場間もなくは、男色っぽい描き方もあるが、あくまで曖昧な表現だ。このミカエルを若きウォルター・スレザックが演じている。この頃のスレザックがメッチャ綺麗。これが後に、ヒッチコック『救命艇』のドイツ兵や、ルノワール『自由への闘い』のドイツ軍指揮官になるとはとても思えない。

 そして、画家とミカエルの仲に亀裂を入れるのが、侯爵夫人役のノラ・グレゴールなのだ。こちらは後の、ルノワール『ゲームの規則』の主人公だ。彼女の登場カットも特別で、玄関扉のすりガラスの向こうに出現する縦構図カットだ。さらに、2人が恋仲になるシーンもまた特別な演出が与えらえれてる。画家ゾレが侯爵夫人の肖像画に目を入れられないので、ミカエルに頼むシーン。こゝで、ドリーの寄り引きのカットが挿入される。ドリーは全編でこゝだけだ。侯爵夫人は「私の目をよく知っているのね」と云って、ミカエルにキスをする。

 本作では、もう一組の不倫の恋愛が描かれており、画家の知人であるアリスとヘルツォーク。終盤のアリスの夫と、ヘルツォークとの決闘シーンは数少ない屋外シーンで、撃たれた男が倒れるカットなんて全く見事だし、パンニングすると傾いた墓標(十字架)が見える、という演出も興味深いが、このもう一組の不倫カップルのプロットによって、全体の構成が散漫になった感がする。

 しかし、エンディングのゾレのカットには戦慄するし、ミカエルと侯爵夫人を最後に映したツーショットの、特にノラ・グレゴールの表情が怖い。テア・フォン・ハルボウの考えた帰結なのか、ドライヤーによるディレクションなのか分からないが、考えれば考えるほどゾッとするラストだ。

#主要な人物は役名と俳優名が登場時に字幕で出る。画商・カール・フロイントと、終盤で字幕が出たのには驚く。彼がちゃんと演技しているのにも驚いた。

(評価:★3)

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