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[コメント] 斬り込み(1970/日)

沢田幸弘の監督第一作は、矢張りとても瑞々しいヤクザ映画だ。開巻アバンタイトルは空撮。東京湾から京浜工業地帯へ数ショット繋ぎ、川崎駅。駅前に藤竜也。彼のサングラスのアップでタイトルインする。
ゑぎ

 誰もが、藤竜也の映画なのか?と思ってしまうオープニングだ。しかしそれもあながち間違いでなく、渡哲也は始まって15分ほど経って登場するが、前半はほとんど活躍しない。終盤は渡のカッコよさも際立つけれど、全編通じて、藤竜也、沖雅也岡崎二朗藤健次の4人の若いヤクザがフォーカスされるのだ。

 お話は、藤たち4人の他、その兄貴分の郷えい治が所属する郷田組と、敵対する、というか吸収しようと揺すぶりをかけてくる関東連合との対決のお話。悪役側、関東連合の幹部・青木義朗と殺し屋の曽根晴美もシブい。渡哲也は、一匹狼で、かつて関東連合につぶされた組の生き残りだ。郷田組のご隠居(引退した元組長)の中村竹弥だけは、渡と面識がある。このご隠居の家の庭で、2人が対話するシーンがなかなかいい。中村が、剪定ばさみで枝を落としながら会話する演出は、『続悪名』の中村鴈治郎を思い出した。

 藤竜也ら4人の場面では、4人で中村竹弥を襲うシーンの緊張感が見事だ。あるいは、朝の商店街を、自転車に乗った沖雅也が行くショットを繋ぎ、藤健次の家に寄って、彼を拾う。藤健次が家を出る際、母親の初井言栄が声をかける。続いて、殴り込みのシーンを繋ぐ、といったセンスもとてもいい。

 ちょっと残念なのは、女優でビッグネームが誰も出ていない点で、ヒロインと呼べる存在がない。ヒロインに近いのは、郷えい治の妻役の扇ひろ子と、岡崎二朗が将来を約束する青木伸子ぐらいだが、渡と藤竜也には、女がからまないのだ(藤竜也には青木伸子を犯すシーンはあるが)。

 本作のラストの殴り込みは葬儀会場を舞台とし、渡と郷と藤竜也の3人が大暴れする乱闘シーンだ。立派な祭壇がむちゃくちゃに壊される。この演出は見応えがある。ラストカットは俯瞰のズームアウトから空撮に繋ぐ処理で、開巻と呼応する。第一作らしい若々しさと、同時に手堅さも感じさせる演出ぶりだと思う。

(評価:★3)

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