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[コメント] みんなのヴァカンス(2020/仏)

期待を裏切らない傑作。やっぱり、この監督は劇映画がいい。そのとびっきり美しい色遣いの特色は、ドキュメンタリーでも見られるが、優しい人物の造型と皮肉な作劇、しかし同時にカメラの眼差しは暖かい、という特質は、劇映画の方が際立って感じられると思う。
ゑぎ

 本作も邦題で分かる通りバカンス映画。主人公はフェリックスとシェリフという二人の黒人男性だ。彼らは友人。初対面の白人男性エドゥアールの車に乗り込んで3人で目的地のキャンプ場を目指す。その場所は、実はフェリックスが最近知り合ったアルマという女性のいる(家族とバカンスを過ごす別荘のある)場所であり、アルマにサプライズで再会しようという目論見なのだ。

 序盤はフェリックスとエドゥアールが悉く衝突し、シェリフがなだめ役になる。これが徐々に関係が変化する過程の描写がいい。最初に自動車が細い道に入ってしまい、バック走行中に何かにぶつかるシーンなんてとても上手い見せ方で、この事件が余計に関係を悪化させるのだが、本作ではエドゥアールが自転車好きで、彼がフェリックスと山道をサイクリングするシーンなどを挟み、二人の関係が和らぐのだ。

 また、フェリックスとアルマとの関係については、キャンプ場の救護係や掃除係の男性、あるいはアルマの姉も加わって、修羅場の様相を呈するが、修羅場と云っても、エドゥアールも参加した、救護係の男性が先導する急流滑り(というか滝壺へのダイブ)の場面で、アルマがパニックに陥ってからの演出の畳み掛けには笑ってしまった。このあたりも、あくまでもユーモアと優しい眼差しを忘れない演出なのだ。

 一方、水に入れない(度々中耳炎と云う)シェリフは、幼児を連れた若い母親エレーナと知り合い、なにかと子守りを手伝いながらも(手伝わせられながらも)、充実した時を過ごすのだ。結局、全編のクライマックスは、シェリフとエレーナが夜のキャンプ場のバーを訪れる場面じゃないだろうか。こゝにもエドゥアールが先に来ており、二人にカラオケを唄うよう仕向ける。歌はクリストフの「愛しのアリーヌ」。その後のダンスするシェリフとエレーナのショットが、本作のベストショットだと思う。エンディング、プロットの収束も絶妙だし、ラストカットもこれ以上ないものだろう。尚、エレーナの子、ニナも名演技なのだ。

#備忘

・シェリフは『おおかみこどもの雨と雪』のメインビジュアルがプリントされたTシャツを着ている。

・クリストフの「愛しのアリーヌ」は最近よく聞く曲だなぁと思って調べると、『フレンチ・ディスパッチ』でも使われているし、『グレイマン』のプラハの場面の導入ショット(ドローン空撮ショット)のバックに流れている曲だった。

(評価:★4)

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