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[コメント] 復讐の荒野(1950/米)

凄い傑作だと思う。原題は「激怒」や「復讐」を意味する言葉なので、この邦題、ということだろうが、劇中では、主な舞台となるウォルター・ヒューストンが経営する牧場の名前でもある。
ゑぎ

 冒頭は長男のクレイ−ジョン・ブロムフィールドの帰宅シーン。牧場の中の屋敷には妹のバーバラ・スタンウィックがいる。亡き母親の部屋での会話シーンで、2人は(特にスタンウィックが)、父親(ヒューストン)のことをTCと呼ぶ。こゝにTC−ヒューストンが帰宅。これが全くヒューストンに相応しい豪快なキャラだ。取引相手のアルバート・デッカーを連れている。彼に召使のチキータを上手くあてがうのだが、これは、デッカーを後で脅す(チキータとの関係を家族にばらすと云う)ための計略だ。ヒューストンのみならず、スタンウィックも嬉々として取引相手を脅すことに加担しており、序盤でこの父娘の酷いキャラクターを印象付ける。

 シーンは前後するが、デッカーを連れて、牧場の中を案内する場面で、泥の沼に仔牛がハマって身動きが取れなくなっており、これをヒューストンが助け出すシーンがある。こゝは、終盤で、ヒューストンが丘の上にいる巨体の離れ牛と格闘する場面と上手く呼応させたシーンだろう。いずれも、とても上手くスリルを醸成している。また、この沼と仔牛の場面は、スタンウィックの幼馴染エレラ−ギルバート・ローランドの登場シーンでもある。この後すぐに、スタンウィックとローランドの密会シーンがあり、2人はキスをする。

 そして、もう一人の重要人物、ヒューストンに父親を殺され土地を奪われたと恨んでいる男ダロー−ウェンデル・コーリイの登場は、スタンウィックの兄の結婚パーティシーンだが、このキャラも、実に不敵な造型だ。また、敵対するヒューストンに反して、コーリイに近づくスタンウィックの反応も実にふてぶてしく面白いと思う。馬車でかつてのコーリイの父親の土地・ダロー区画へ行き、2人はキスをするのだ。

 というワケで、スタンウィックをめぐるローランドとコーリイのプロット展開が焦点になるのかと思わせるが、実は、それ以上に、ヒューストンとスタンウィック及びコーリイの3人の確執が主軸の展開となり、さらに、ヒューストンがシスコから連れてきた女性−ジュディス・アンダーソンが加わり、複雑な人間模様が描かれる。また、ローランドにも良い見せ場があり、彼の存在がラストに至るまで効いて来る、という実に見応えのあるプロット構成だ。

 さて、梗概からはなれて、特筆すべき良い場面をあげておこう。まずは、スタンウィックとコーリイの間で反復されるビンタの応酬について書いておきたい。映画における唐突なビンタは観客に驚きを与える良い場面を導くのが常だが、本作におけるそれも見事なものだと思う。あと、亡き母親の部屋でのスタンウィックとアンダーソンの対決場面。こゝでは、ビンタどころではない強烈な暴力が描かれる。この後の、自失したかのようなスタンウィックが階段を降りる様子を手摺りの間から撮ったショットもいい。階段を使ったシーンでは、ヒューストンとスタンウィックが階段の踊り場で会話するショットも指摘すべきと思う。窓の外は土砂降りの雨。そして、本作の白眉は、エレラ−ローランドの住処の岩山へヒューストン率いる牧童たちが急襲する場面だと思う。こゝだけはアンソニー・マンらしい岩山の西部劇になる。俯瞰と仰角を駆使した銃撃戦。落下する岩。牧童たちから魔女と呼ばれる女傑でローランドのママ−ブランチ・ユーカ。この人も凄い個性だ。対してダイナマイトを笑いながら投げるヒューストン。魔女も笑う。このシーンの帰結もなんという展開。画面手前に魔女を映したディープフォーカスのショットが非情さを際立たせる。ラストは若干性急にも感じられるが、最終的にヒューストンの度量の大きさが本作の懐深さを象徴する。これもまるで神話のような深さを感じさせる作品だ。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・目立つ脇役ということでは、牧童頭のエル・ティグレがトーマス・ゴメス、事務を任されているスコッティはウォーレス・フォードだ。

・ジュディス・アンダーソンがピアノを弾きながら唄い、ヒューストンが続けて唄う歌は「淋しい草原に埋めてくれるな」のメロディだと思う。

・銀行の頭取の妻役はボーラ・ボンディで、出番は少ないが、これも女傑。

・医者役のフランク・ファーガソンは殆どワンカット程度の短い出番。

(評価:★5)

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