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[コメント] ジオラマボーイ・パノラマガール(2020/日)

冒頭から、カメラ位置の高低感がキャッチする。鈴木仁−ケンイチの家の居間におけるカメラ位置が高いのだ。彼の背が高い、ということが理由の一つだと思うが、仰角を避けた構図だ。人物を水平に撮ろうとしているように思う。
ゑぎ

 そして屋外シーンでは、逆に東京ベイエリアの構造物を使い、高低差を意識させるような空間造形を行っている。「見上げる、見下す」というのは山田杏奈−ハルコとの出会い(すれ違い)のシーンで使われる印象的なナレーションだが、画面は橋の上にケンイチ、橋の下にハルコを歩かせる。逆に、ハルコが陸橋の上におり、ケンイチが、その下の道をスケボーに乗って通る、といったシーンもある。いやそもそも、二人の本当の出会いの場面は、路上に倒れている血だらけのケンイチと、通りがかりのハルコの俯瞰仰角の切り返しで、ハルコの仰角カットで空に稲光をあしらったものなのだ(こゝで既に上空の光が描かれる)。

 さて、ハルコとケンイチが、彼の姉−成海璃子から誘われて、渋谷のイベント会場へ向かう場面。ゆりかもめの次に、夜の東京タワーの側にいるカットが繋がれる。この部分、地理的にはいい加減だが、都市としての東京のイメージが良く出た、美しい画面だ。ただ、いまだに東京タワーなんですかね。そう考えると、「PARCOのPをHに」なんてシーンも、なんか古臭く感じます。原作の挿話に引きずられているのかも、と思った。そのデンで云うと、小沢健二のLPレコードはいいとしても、ケンイチの部屋の『2001年』のポスターと、女子3人のフォースへの言及にも違和感あり。

 さてさて、本作にはあと二人、重要な登場人物がいます。まずは、ケンイチが、宮下公園の下(キャットストリートへの入り口辺り)でナンパしている際に出会う、大学生(?)の森田望智−マユミ。彼女のミステリアスな、複雑な造型が、本作の面白さに随分と寄与していると思う。もう一人が、ハルコの友人の滝澤エリカ−カエデだ。後半の良いシーンの多くは、カエデが導いていると私は思う。ハルコとカエデが早朝の港で横臥する俯瞰のカット(ハルコは、口紅をぬぐったせいで頬が紅色になっていて、先のケンイチの血だらけの顔との相似性を思わせる)。あと、建設中のビルの高層階で、エアキャップ(ぷちぷち)のかかったダンボール箱の中、ハルコとカエデが密着するシーン。こゝのアップカットがとてもいいのです。

 その他、ハルコが深夜の渋谷を疾走するカットや、ラスト近く、一人険しい顔で歩くカット等も良い。という訳で、アナクロな違和感はあるものの、良い画面が積算されて、興奮の持続する映画だと思う。この監督も将来が楽しみです。

(評価:★4)

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