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[コメント] クライムズ・オブ・ザ・フューチャー(2022/カナダ=ギリシャ)

全く予備知識なく見たが、クレジットバックの赤い画面は、体内の臓器のイメージかなと思った。黒い模様も入っている。この辺りは徐々に種明かしされる。
ゑぎ

 全体にクローネンバーグらしい、ぶっ飛んだ発想のプロット、意匠が横溢している面白い映画だが、少々理屈っぽいとも思う。しかし、ほとんど謎を残さず、画面で理解させる演出は明晰だ。もっと混沌の中に終わっても良かったんじゃないかと思ったぐらいだ。

 冒頭は、海の浅瀬。画面奥に、座礁した船が横倒しになっている。カメラがトラックバックすると、画面左に少年が映る。スプーンで海の砂をすくっている。ブレッケン!と叫ぶ声。海辺の建物の2階から母親。その辺りにあるものを絶対に食べないで!私は海が汚染されているのかと思ってしまったが、夜、バスルームで歯磨きをしたブレッケンは、トイレの横に座って、黄色いプラスチックのゴミ箱をかじるのだ。

 続いて奇妙なサヤのようなベッド。木の蔓みたいなものが上に延びていて、天井の鐘状のモノに繋がっている。レア・セドゥ−カプリースが歩いて来、窓を開け、陽の光を入れる。ベッドにはヴィゴ・モーテンセン−ソール・テンサー。何か悶えている。この時点でモーテンセンは植物と同化した人なのかと思ってしまった。この後、モーテンセンが普通に歩いていたりするので、サヤのようなものは、特殊なベッドなのだと分かる。あるいは、モーテンセンの食事風景が奇妙で笑ってしまう。変な椅子に座りながら食事を摂るが、まともに食べられないのだ。この椅子は、ブレックファースターチェアと呼ばれていて、この後も度々出て来るが、その度に私はニヤケながら見た。

 これらのベッドや椅子といった家具、というかシステムというべき機器は、ライフフォームウェア社製とのことで、この会社の女性技術者(保守担当)2人が登場して、やっとその意味合いが、おぼろげに分って来る構成も自然な流れで周到と思う。もう一つ、モーテンセンとセドゥが使用しているライフフォームウェア社製品で重要なのが、サークという解剖システムだ。女性技術者が、この家には伝説の製品サークがある、と云った次のショットで、いきなりサークを使ったショウのシーンが繋がれるカッティングがいい。ベッドとその横の触手のような部分を遠隔操作するデバイスは、ヒキガエルみたいな形状をしており上部に縦に亀裂がある(女性の外陰部みたいな形とも云える)。これらを操って、モーテンセンとセドゥは、ボディパフォーマンスをするパートナーなのだ。

 他の登場人物では、国立臓器登録所の職員であるウィペット−ドン・マッケラーと若い女性職員ティムリン−クリステン・スチュワート、あるいは、冒頭の少年ブレッケンの父親−スコット・スピードマン。新風紀取締り班(NVU)の刑事コープ−ヴェルケット・ブンゲなんかがいるが、中でも、やっぱり、クリステン・スチュワートが重要だろう。モーテンセンとセドゥのショウについて新しいセックスだと指摘したり、後半にはモーテンセンを誘惑する役割も担っている重要な役なのだ。ただし、イマイチそのクリーピーさは中途半端な描き方に思えた。あと、ブレッケンの父親の活動というか組織の存在も、環境問題への対処という大義がある点は面白い理屈だと思った。

 あと書くのが遅くなってしまったが、横臥した状態のセドゥのヌードが圧巻だ。この画面はスペクタクルだと思う。ヌードと云うことで云えば、ライフフォームウェア社の女性2人のヌードシーンもある。また、ボディパフォーマンスをする中には、上下の瞼と上下の唇をそれぞれ黒い糸で縫い付けている、耳だらけ男のビジュアルが素敵。エンディングのモーテンセンの表情も素敵。

(評価:★3)

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