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[コメント] 血涙の志士(1928/米)

アルジェリアの外人部隊。長テーブルでの食事シーンにヴィクター・マクラグレン−ホーガンがやって来る。食事に合流するが、手紙を読み、どうしてもアイルランドに行かねば。殺したい奴がいる、と云う。
ゑぎ

 アイルランドに戻ると、彼はお尋ね者なのにだ。この頃のマクラグレンって、ハンサムとはほど遠いが、実にカッコいい。続いて、池の向こうのお城のような屋敷。原題タイトルの家だ。つまり、本作も屋敷が主人公のような映画なのだ。呪われろ!と叫ぶ住民。邸の主はオブライエン卿−ホバート・ボズワース。英国側について、革命派を弾圧したということだろう、ハングマンと呼ばれている。彼の部屋の場面で、暖炉の内側にカメラを置いたような、炎より奥から撮ったショットがある。また、暖炉の火に、死刑執行場面や、苦しむ人々を合成したショットもあり、ホークスはこういうことをやらないが、フォードならやる、と云える演出だろう。

 本作のヒロインは、屋敷の娘コンノート(コン)−ジューン・コリア。恋仲のダーモット−ラリー・ケントがいるにも関わらず、親が決めた名士ダーシー−アール・フォックスと結婚しなければならない、という役だ。彼女はフォードの前作『四人の息子』でもヒロインだったが、非常に綺麗な女優だ。彼女の元には、大きな犬(アイリッシュウルフハウンド)が控えていて、邸の場面では必ずこの犬が活躍する。

 結婚式の日。霧の中、ローブを纏って歩く横移動ショットで再登場するマクラグレン。邸の中の大きな鏡に、庭側の窓が映り、その窓の向こうにマクラグレンが現れる。驚いたダーシーが瓶を投げる、といったシーンで、この二人の因縁が想像できてしまうのだが、二人の対決は引き延ばされる。

 そして本作の最も見応えのある場面は、矢張り、聖ステファノの日の競馬(障碍レース)の場面だろう。続々と馬車で人々が集まるショットにはワクワクするし、丸い黒眼鏡の乞食(beggar)に扮したマクラグレンがお洒落。レースシーンは、水壕や石垣での落馬ショットがとても迫力のある造型だ。どうしても、後の『静かなる男』のあの奥行きのある美しい風景の中での馬の躍動を想起してしまうけれど、この二作の競馬シーンは、また別モノという感覚で見た。あと、観客の中にエキストラ時代のジョン・ウェインがいるのは有名だが、確かに数ショット、視認できるショットがある。

 また、競馬のプロットで重要なのは、ダーシーが借金までして賭けていた馬が勝てなかったことで、怒って優勝した馬を射殺する場面だろう。すぐさま、皆に取り押さえられ、ボコボコにされる。さらに以降、可哀想なぐらい、卑怯者として扱われるという展開も徹底しているのだ。

 終盤は、捕らえられたマクラグレンが、牢破りをする場面もなかなかの迫力で、牢屋のシーンから、続くその外観ショットが、高い窓で驚きがある。あるいは、コンとダーモットが、マクラグレンの隠れ家を訪ねる場面は、こゝも霧の中の場面だ。葦のある川を小舟で行くショットが良い造型。ちなみに、このシーンでは、ジャック・ペニックが顔を見せる。ラストを締めるのもマクラグレンで、この頃の彼はホントにカッコいい。

#マクラグレンは「Citizen Hogan」と呼ばれている。「Citizen」には、単なる「市民」という以外の特別なニュアンスがあるのだろう。

(評価:★3)

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