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[コメント] 月の出の脱走(1957/アイルランド)

アイルランドを舞台にした三つの話のオムニバス。タイロン・パワーが進行役(どの話の中にも登場しない司会者役)を務める。
ゑぎ

 一話目の「法は何にも勝る」は、フランク・オコナーの短篇小説が原作で、これは本邦でも翻訳され、文庫本に収められており、私は既読でした。ただし、原作はほゞ2人の人物だけで構成されていたのに対し、この映画では、人物も少し増えており、映画的な肉付けがされている。まずは、頑固な老人ノエル・パーセルの住む住居が、『静かなる男』でジョン・ウェインミルドレッド・ナトウィックから購入する、あの家と同じ、という点で感激してしまった。あとは、ジャック・マッゴーラン(この人は『静かなる男』に出演している)がミッキー・Jという役名で出て来るが(この役は原作にない映画の創造)、彼が登場する蒸留酒造りのための塔の佇まいが素晴らしい。

 二話目の「1分間の停車」という挿話が、私は三話中でダントツに良いと思う。なんと、最初に(汽車が駅に入る前に)、汽車と馬車の併走カットがあるのだ!駅は、キャッスルタウンと同じセットか?汽車もウェインが降り立ったあの車両と同じか?と思い、『静かなる男』の映像を確認したが、結果は別々でした。しかし、描かれている情景は、キャッスルタウンの場面の駅員たちや、近所の住民と同じ雰囲気、もっと云えば、ウェインとマクラグレンの殴り合いに駆け付ける野次馬たちと、同じ雰囲気なのだ。さまざまな理由をつけて、停車時間を延長し、その度に、食堂へ飛び込んでビールを飲む、という乗客や機関士たちを反復するだけの話だが、もう誰のものでもない、フォード以外では考えられない、映画の時間が成立しているのだ。

 そして三話目は「1921年(月の出)」というタイトルの付いた、有名戯曲が原作のお話で、三話中では、いちばん起伏のあるプロット展開と云えると思うが、残念なことに、ロバート・クラスカーが好き勝手やったとしか思えない画面造型なのだ(いや。フォードもこれを許しちゃったんでしょうね)。要は『第三の男』のような、嫌らしい斜め構図の連発。これが、他の二つの挿話のように、まともなアングルで撮られていれば、『果てなき船路』を彷彿とする、いい雰囲気の作品になったのではないかと思われる。この挿話では、革命家(独立運動の勇士)の逃亡と、それに絡む巡査デニス・オデアと、その妻アイリーン・クロウの関係が中心に描かれるが、このアイリーン・クロウという人は『静かなる男』では、プロテスタント(つまり英国側)の牧師アーサー・シールズの妻を演じていた人で、本作での彼女の扱いの大きさは、私には嬉しかった。

(評価:★4)

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