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[コメント] CLOSE/クロース(2022/ベルギー=オランダ=仏)

レオとレミの映画。それは、開巻からラストショットまで徹底的だ。同時に、かなりの部分が、レオとレミの母親の映画でもあり、いずれにしても、レオが全き主人公だ。別の切り口で云うと、レオの視線の映画、とも云えるだろう。
ゑぎ

 また、本作も、なんて綺麗な映画だろう。開巻は、古くて狭い建物(倉庫?)の中のレオとレミの描写。こゝもローキーだが、金色の陽の光が取り入れられたシーン。こゝから、レオとレミが戸外へ走り出すと、色とりどりの花畑を疾走する2人の横移動ショットとなって、色彩が爆発する。レミの家の中は、黄色(金色)と赤。寝室の壁は赤色だ。あるいは、レミのオーボエの演奏会の場面では、レミは赤色のシャツを着ており、このショットも極めて美しい。

 カメラワークについては、序盤は、ほゞ手持ちだと思ったが、中盤から固定ショットが基本になる。人物が歩くのを後ろから追ったショットなどは除くが。ただし、自転車あるいは走る少年たちを横移動で撮った疾走感のあるショットも多数ある。それと、中盤から、かっちりした切り返しも増える。例えば、アイスホッケー場のリンクの中のレオと、観覧席側のレミの母親との切り返しは、仕切りを隔ててイマジナリーライン越えの180度の切り返しだ。

 もう一つの画面の特徴として、エスタブリッシングショットを全く使わず、人物というか、ほぼレオを見せることに集中する画面造型を指摘すべきだろう。例えば、ホッケー場や花畑を引いて撮ったロングショットなんかも、あってもいいと思ったが、全くない。ちなみに、レオが家業(花畑)を手伝うシーンが多い。児童労働として問題のあるレベルじゃないかと心配になるぐらい。

 さらに、シーンの途中で大胆にぶつ切り、どんどん繋ぐカッティングも本作のスピード感、あるいは、観客の感情操作に寄与しているだろう。中学校の初日、クラスで一人ずつ自己紹介をするシーンが顕著。レオとレミの番も回ってくると思って、何を喋るか予想して待っているのに回ってこない。オネショの後はどうなった?とか、レミの家に走って行ったレオが壊れたドアを見る場面もそうだし、ラストショットの視線の演出もそうだろう。

 そう云えば、レミの母親−エミリー・ドゥケンヌは『ロゼッタ』のタイトルロールだ。前半の手持ちの多用やエスタブリッシングショットの不在、ぶつ切りのカッティングといった辺りは、ダルデンヌ兄弟の映画っぽいと思ってしまったが、しかし、後半の固定ショットや切り返しの使い方は、全く異なるし、本作も、前半と後半の変化を含めて、実に考え抜かれた演出だと思う。佳編。

(評価:★4)

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