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[コメント] 午前2時の勇気(1945/米)

男の背中から始まるシーケンスショット。舞台は波止場か海に近い道路だと分かる。道標・行先表示版にアーチー通りとオーシャンビューと書かれている。男は頭から血を流してふらついており、タクシーにぶつかる。
ゑぎ

 タクシー運転手はアン・ラザフォード。病院へ、と男を車に乗せる。ラザフォードは車(タクシー)にハリーという名前を付けている。これがラストまで要所で効く。

 男はトム・コンウェイ。記憶を喪失していると分かる。まずは身元を調べようと車を降りて、2人で海の見えるベンチに座り、所持品を確認するのだが、この場面の後景の海がキラキラと輝くショットが美しい。スクリーンプロセスだろう。こゝで、彼が何も思い出せない帽子のイニシャルや、所持品(舞台のチケット、ホテルのマッチなど)を使って謎を形成する。また、ラザフォードは元女優だと分かるが、27歳頃の彼女がとてもチャーミングだ。こゝから、コンウェイは、明らかに殺人事件に巻き込まれた男であり、彼が、殺人犯ということもあり得る状況だということが判明する展開に。というワケで、事件の真相を究明する2人の探偵物語となるのだが、実は、ほとんど犯罪をダシに使ったナンセンス・コメディに近い映画だ。

 例えば、服を着替えるために入った洋服屋のシーンでも、ジョークの連続だし、ラストまで絡む新聞記者のリチャード・レーンと刑事(警視)−エモリー・パーネルについても、はじめからコメディパートに見える。ラザフォードのアパートの大家(お婆さん)の位置づけも同様だ。また、コンウェイが持っていたマッチに記載されていたホテル(リージェンシーホテル)を訪れたシーンで、ダンスする女性−ジーン・ブルックスにジロジロ見られたり、知らない男から馴れ馴れしく話しかけられたり、あげく、若きジェーン・グリア(まだ、ベティジェーン・グリアという芸名時代)からいきなりキスされる、といった見せ方は、スリルにも機能するけれど、とてもユーモラスだ。

 それに、終盤のミステリーあるいは謎解きの部分の興趣はイマイチで、悪役たちの尻尾の出し方も唐突過ぎる、演出としても性急過ぎると感じるものだ。この部分がもう少しきめ細かに造型されていたならば、犯罪映画としても評価されていただろう。いや、犯罪映画としての完成度は低いが、エンディングに至るまで、コメディとしては十分に楽しめる映画だと思う。

#邦題(原題の直訳)は、本編中に出て来る演劇台本のタイトル。

(評価:★3)

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