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[コメント] エロス+虐殺(1970/日)

これもメッチャ面白い。伊藤野枝の娘役の岡田茉莉子に、永子−伊井利子がインタビューするシーンから始まる。この冒頭から、シネスコサイズの画面を非常に大胆に使う「際立った構図」を見せる映画だ。
ゑぎ

 これにクロスカッティングで、ミドルエイジの男性−川辺久造から永子−伊井がお金を受け取るシーンが繋がれる。空港か?と思う。続いて、ホテルの廊下。原田大二郎がドアベルを鳴らしながら奥から手前に歩いて来る。カメラが部屋に入って壁をすり抜け移動したかと思うと、永子−伊井が全裸うつ伏せでベッドにおり、その身体を愛撫する川辺。壁の端からソッと見る原田。

 この序盤の原田は、かなり鬱陶しいが、伊井は脱ぎっぷりがいい。シャワーシーンでは、ガラスのパーティションに胸を押し当てる。股間はぼかしが入るが、伊井の手淫イメージに、さらに沢山の男性の手が出て来るイメージが重なる。そして、桜が満開の池の淵を歩く、大杉栄−細川俊之と、野枝の岡田茉莉子。野枝は20歳ぐらいの設定か、初々しく作っている。というように、伊井と原田を中心とする現代シーンと、細川−大杉と岡田−野枝の関係を中心にした過去シーン(大正期)をクロスで繋いでいく映画なのだ。

 さて、映画の話ではなくなるが(備忘的に調べたことを記しておくと)、本作ではなぜか、平塚らいてうは、平賀哀鳥という名に変えられており、稲野和子が演じている。同様に、神近市子は正岡逸子となり、楠侑子。大杉の妻(内縁)−堀保子と、野枝の夫(内縁)−辻潤は、改名されておらず、それぞれ、八木昌子高橋悦史が演じている。

 岡田が初めて稲野のところ(青鞜社)を訪ねた日の場面も凄い構図の画面が続く。この日、岡田と入れ替わりに楠が青鞜社を去る、という場面でもあるのだが、稲野と岡田を画面右下に顔だけ映した構図で、画面左奥に楠をとらえたショットなんて常軌を逸した画面だろう。

 伊井と原田の場面では、高速道路の高架下か、河原のようにも見える橋桁のある場所から始まるシーケンスは面白かった。まずとても良いロケーションで、よくこんな場所を探して来たなと思いながら見る。クレーン車の大きなフックを映しこんだ2人の疑似インタビュー。このシーンでも、高速道路の照明灯が、後景に見えていたと思ったが、他のシーンでもこれが映り込んでいるショットは多数ある。大正時代の大杉と野枝が歩くショットなどでも、この照明灯や、現代のビルが映り込むのだ。

 そして本作のクライマックスは楠が短刀を抜いて、細川−大杉の喉を切るシーン周りの部分だろう。初めはちょっとしか出血しないが、ちゃんと刃を喉に押し当たことで血が出たように見せる演出には驚いた。また、こゝからの楠が短刀を振り回すシーンが長い。長いけど、べらぼうに構図が面白くて飽きないし、襖や戸板が倒れる様式的な演出も素晴らしい。この後、割とすぐに、大杉と野枝と少年の処刑イメージが連打されるのだが、こゝも椅子に座らされているショットと地面に転がされているショットが繋がれて面白い。しかし、エピローグ的な扱いの見せ方だと思った(さらに、伊井と原田たちも加えて写真撮影するなどといったエピローグもあるけれど)。実は、私はこの、大杉と野枝の処刑場面がクライマックスかと思っていたのだ。史実を確認すると、大杉が愛人の神近市子(楠侑子)に刺されてから、約7年後に憲兵隊に扼殺されたようで、7年間をほゞ割愛しているのだ。尚、甘粕正彦らの憲兵たちは全く描かれない。

(評価:★4)

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