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[コメント] この空は君のもの(1943/仏)

俯瞰で羊の群れと羊飼いが、画面左から右上へ移動するショット。オフで子供たちの歌声。この俯瞰はクレーンで、右へ少し下降移動すると、子供達が輪(二重円)になって回っている。唄いながら。
ゑぎ

 さらに下降移動すると、看板があり、孤児院の広場だったことが分かる。ちなみに、ラスト近くにも、多分こゝと同じ場所で、羊ではないが、人の群れが画面左から右上へ移動する俯瞰クレーンショットがある。本作も、ジャン・グレミオンらしい見事なクレーン俯瞰がなん度も出てくる。また、孤児院の子供たちは、劇中他にも2回ほど画面の中を歩いて行く。この子らはプロットには絡まないが、何かの(多分、時代の)象徴だろう。

 主人公はシャルル・ヴァネルマドレーヌ・ルノーの夫婦。子供は娘と息子。ルノーのお母さんも一緒に住んでおり、自動車修理工場を営んでいる。冒頭は、ヴァネル一家の町への引越し場面。住んでいる場所(町はずれ)に飛行場ができるから、という会話がある。この飛行場が彼らの運命を変えることになる。しかし、その前に町で工場を始めた一家の様子を描いていて、良い顧客ができ、工場が発展する(大きな電飾看板が取りつけられたりする)のが、省略を効かして繋がれたり、娘のピアノの才能についての描写などがある。ピアノの先生と娘が、連弾をするシーンで、ルノーがリクエストする「リラとバラ」という曲が、ラストでも反復される。

 この序盤では、ヴァネルがかなり目立っており、ルノーは大人しいのだが、中盤以降、ルノーが活発になり、イメージが逆転する。矢張り、ルノーがトップビリングだ。町はずれにできた飛行場で女性飛行士の曲乗りのイベントがあり、刺激されたヴァネルが最初に熱中するが(元飛行士だったのだ)、そのうち、ルノーが飛行機に病みつきになる。操縦はヴァネルに習ったのだろうが、そのあたりもあっさり割愛され、あっという間にルノーがトロフィーを沢山もらっている、という展開だ。ただし、そんな生活を続けるにはお金もかかるので、娘の音楽学校(コンセルヴァトワール)への進学希望は却下されるし、さらにピアノも売られてしまうという負の側面も描かれる。

 プロットの起承転結でいうところの「転」にあたるのは、女性最長飛行記録への挑戦から終盤にいたる、ルノーが画面上から隠蔽される一連のシーケンスだろう。マルセイユの飛行場を出発したルノーの飛行機が行方不明になり、管制塔で連絡を待つヴァネル。結局、汽車で子供たちの待つ駅へ帰って来る。この雨の駅のシーンが見事な画面だ。父子の後景を汽車が走っていく。ヴァネルと子供二人が雨に濡れた道を歩く後ろ姿。この後、家に帰ると、ルノーのお母さんや、その知人からヴァネルは激しく非難される。しかし、ピアノの先生だけが、ヴァネルの味方になってくれる、というのもいい作劇だと思う。ピアノを売り飛ばし、娘の才能を伸ばすことに耳を貸さなかった、という状況も、この先生は熟知しているにもかかわらず、寛容さを示すのだから。いや、夢を追う自由さを非難してはいけない、という考えで、一貫しているとも云えるだろう。

 実は、ラストで娘のピアノを買い戻し、パリの音楽学校へ行かせてやる、という場面が出て来るのだろうとずっと予想しながら見ていたのだが、全くスルーされるので驚いた。しかし、こんな落ち着きの良い帰結を選択しない、ということにも意味があるのだろう。戦時下(ドイツ占領下)で製作されたということが投影されているのではなかろうか。

(評価:★4)

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