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[コメント] 真夜中の虹(1988/フィンランド)

革のジャケットとトランクとラジオの映画。あるいは自動車の映画と云ってもいいだろう。それぞれ複数の持ち主が、着たり、持ったり、鳴らしたり、乗ったりする。
ゑぎ

 レザージャケットは、主人公のカスリネン−トゥロ・パヤラが、いつも(娑婆のシーンでは)身に着けているが、彼が恋する女性−イルメリ−スサンナ・ハーヴィストの息子も着て登場するシーンがある。このシーンは、トランクもこの2人で繰り返される、ということを含めたギャグのような演出だろう。ラジオは主人公が持ち歩くだけでなく、刑務所の(同じ監房の)先住者ミッコネン−マッティ・ペロンパーも持っていて、音楽を所内に響き渡らせるシーンがあったりする。他の場面でもラジオは出てきて、カウリスマキらしく、チャイコフスキーの「悲愴」がかかる。

 本作の自動車はさらに大事だと思う。この映画の2つの最もチャーミングなシーンで使われているからだ。一つ目は冒頭近く、主人公が自動車(オープンカー)で旅立つ場面での、納屋のような車庫から発進する演出。もう一つは、銀行強盗のシーンだ。こゝは、演出的には全く異なるが、自動車をからめてワンカットで見せるという意味で、『拳銃魔』の銀行襲撃シーンをも想起させる、映画史に残るとまで云いたくなるぐらいの面白い演出だろう。これをコントのように見せるのが素晴らしい。

 この銀行強盗シーンで使われる自動車は、主人公の車(オープンカー)とは違う車だったが(組織が用意した車か?)、オープンカーはラストシーン直前まで出てきて、そのルーフ(幌)の開閉に関する演出もいい。格納されている幌を出すことはできない、というような科白があったにも関わらず、ラスト近くでは、ボタンを押すことで幌が出てきて閉まる。この幌が閉まる様子を映す固定ショットは、まるで棺桶のフタが閉められたように見えるのだ。

 さて、邦題はラストシーンで明らかになるが、原題タイトルも同時に画面で示されるので、二重に腑に落ち、邦題を付けた人たちのある種の諧謔も感じられて、ちょっと面白い趣向だと思った。ふざけた邦題とも云えるが、カウリスマキ作品としては相応しくも感じられる邦題だ。

#教会宿泊所か?男たちが見るボガートの映画は『ハイ・シエラ』。

(評価:★4)

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