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[コメント] 青べか物語(1962/日)

山周の原作は既読。と云っても、これも学生時代に読んだきりで、各挿話とも忘却の彼方だった。本作を見て、主人公の森繁久弥が、途中までオフのモノローグだけで、会話の科白が全然ない、ということにひっかかり、
ゑぎ

 原作を読み返したのだが、やはり原作も同じだった。これは、主人公と浦安(浦粕)というコミュニティとの距離感を表しているのだろう。中盤から、人々との直接の会話が描かれるのだ。

 東京タワーの空撮から始まる。東京湾。江戸川。「べか」という小舟。狭い水路。小さな橋の上で、釣りをする酌婦・左幸子たち。なんて興味深い景色だろう。多くの挿話が描かれるが、共通した登場人物が数人いて、まあ皆見事なキャラクター造型だ。中でも東野英治郎がやっぱり抜きんでて面白い!まさに怪演。常にイェーイと言いながら登場する。他には、消防署長の加藤武、天ぷら屋・桂小金治、床屋で中村是好、小金治の女房は市原悦子。漁師で井川比佐志東野英心ら。

 挿話では、乙羽信子山茶花究の因果話や、蒸気船の元船長・左卜全の初恋の話が良く出来ているのだが、これらは原作の力が大きいように思う。元船長の初恋の人・桜井浩子が船に向かって手を振るカット、岡崎宏三の撮影は絶品だが。

 川島雄三らしい喜劇という意味では、フランキー堺とその母親・千石規子の嫁とりの挿話2つが気に入った。最初の花嫁は、中村メイコ。寝間に袋に入った砂を撒き、フランキーとの結界とする。一週間で逃げられた後の「幟も立たない」という卑猥な隠喩の嘲弄。二番目の花嫁は池内淳子で、これが綺麗なのだ。二人乗りスクーターの疾走シーンのダイナミックさとスピード感がいい。ざまーみろ!という感覚の増幅が上手いのだ。

(評価:★4)

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