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[コメント] 暁の合唱(1941/日)

女学校を卒業した木暮實千代が、ひょんなことから路線バスの運行会社に就職し、車掌から運転手を目指す映画。製作年代から考えて、社会的に、そのようなニーズがあったのかも知れない。
ゑぎ

 小暮は初めから、とてもしっかりしており、入社直後で既に、会社幹部の佐分利信や、前社長(故人)の弟の近衛敏明にも、ほとんど対等に話す。明らかに男まさりの職業婦人の象徴として描かれている。

 とは云え、秋田県の豊かな自然を舞台にした、清水宏作品なので、個々のシーンの演出は多分に牧歌的な魅力に溢れている。まずは、就職前、実家の父母(坂本武吉川満子)に、進学せずにバス会社へ就職することを許してもらった後のシーン。小暮は弟と、原っぱで寝転がるのだ。実はこの後(就職後も)、原っぱで横臥する演出は何度もあって、佐分利と近衛と木暮の3人で、河原に寝転がっているシーンがあるし、あるいは、車掌の同僚の文谷千代子(君江)が泣く場面でも、会社の裏の野原に横になる。

 また、木暮はまず車掌として仕事を覚えることになるが、休憩中も、河原などで、車掌の応対会話の練習をする。葉っぱを切符と見立てて切る仕草がとても可愛い。そして、乗客の描写で印象深いのが、切符代が足りないので、まけろ、と云い張るお婆さん、飯田蝶子だ。木暮は、仕方なく自分が立て替える、と云うが、運転手の日守新一は許さない。警察に突き出す、と迫ると、飯田蝶子は実は小銭がないだけで、大きいお金は持っていた、という場面。あと、花嫁の三村秀子(『サヨンの鐘』では、サヨンの友人ナミナ役で起用されている)とその親族が乗り込んでくるシーケンスも秀逸で、バスの中で、花嫁がおにぎりを3個食べたと驚いていると、いきなり、バスが側溝(どぶ?田んぼ?)に脱輪し、乗客が大きく跳ねるのだ。この車内の衝撃の見せ方は上手い。結局、乗客一同、花嫁も一緒になって、バスの後部を押す、というシーンになる。

 終盤は、木暮が佐分利や近衛と運転の練習をするようになるが、近衛を後部に乗せて、車が反転する事故を起こし、入院することになったりして、矢張り、簡単にはいかないのだ。また、この3人の恋の行方も同時に描かれるのだが、木暮以外に、近衛の義理の姉(亡くなった兄の奥さん)である川崎弘子や、近衛のワケありの女・平井岐代子も加わって、男2人に女3人が絡むのだ。特に木暮と平井の対決シーンは見どころだ。ネタバレになるので、木暮の運転手への夢と恋の帰結はこゝでは書かないでおこう。ラストシーンは、上に書いた花嫁との再会、というか、道でのすれ違いのシーンであり、当然ながら極めて爽やかなエンディングだ。

(評価:★4)

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