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[コメント] 判決前夜 ビフォア・アンド・アフター(1996/米)

誰にでも訪れるかもしれない、「人生を変えてしまう瞬間」。そのあと、起こってしまう出来事やそれを経験する家族の生き様が非常にリアルに描かれている。作り事としてではなく真摯にうけとめるべき問題。そして感動。
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 この映画がはじまって、ものの5分でもうその世界に入り込んでいた。そして、起こった事件を自分の(と言って悪ければ自分の隣に住む家族の)こととして捕らえ始めている自分がいた。それは、なぜだろう。もちろん、メリル・ストリープリーアム・ニーソンといったすばらしい俳優たちのおかげ、もあるけれども、やはり監督をはじめ制作サイドの力ではないかと思える。全編を通して観るものの気をそらさない、正直で(トリックやひっかけのない)筋道だった組み立て、安心してのめりこむことができた。たとえていうなら、きちんとピントと構図の合った写真か絵画を見ているようだ。その点でまずすばらしい、と思った。最近はこういう映画が少なくなってきているような気がする。

 まず、というのはこれを書いている順序のことで、観ているときにそう思ったわけではない。観ている最中に強く感じていたのは、父と母の愛の強さ。特に母は、父とは意見が違っていてもそれは父なりの愛情表現であることがわかっている。それだけ互いに信頼しているということだろう。主人公は、父、母、兄、妹の4人家族。その誰もが、人生を変えてしまう瞬間のその後、どのように生きていくべきなのか、目の前に起こる事実にどのように対処していくのかを考え、助け合い生きていく様はまさに涙なしでは見られなかった。

 「それ」が起こったとき、法律の上で、または道義上、なすべきことはおのずと決まってくる。ただ、何を正しいと感じ、何を一番大事と、守りたいと思うかは人それぞれだろう。それを言い出せばこの世は混沌とした秩序ないものになってしまう。だから、真実にこだわった母。しかし、それでいいのか。一番大切なものを守るためには何もかも捨ててもいいということもあるのではないか。それが父の生き方。そこに法廷という曖昧模糊とした世界の代表として現れる弁護士。真実よりも依頼人の勝訴を勝ち取ること。それがプロフェッショナルとしての彼の決断。

 物事は一方向からだけ眺めていてはいけないな。でも真実を避けては通れない。ふとそんな風に思った。

 兄役エドワード・ファーロングの熱演もすばらしい。年齢は若くてもすばらしい役者だと思った。今の彼は?また作品をチェックしたくなった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)Madoka[*]

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