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[コメント] サスペリア・テルザ 最後の魔女(2007/伊=米)

前作から27年も待たせておいてこれですか?
たわば

まずは魔女三部作が無事完結したことに対し賛辞を送りたい。だがこの映画で素直に誉められるのはそのぐらいしかない。なにしろこの映画、アルジェントから鮮血の美学を引いて代わりにCGで埋めましたといった感じの作品で、つまるところその辺のホラー映画と大差ないというか、むしろそれらよりも出来が悪いのでは?とさえ思える作品であった。

もちろん『サスペリア』や『インフェルノ』も完璧な作品とは言い難い。どちらかと言えばストーリーよりも雰囲気優先な内容だったが、そこがかえって個性的で魅力ある映画として多くのファンを得たのだと思われる。だがこの完結編では、ストーリーがどうでもいい点だけが引き継がれ、肝心の雰囲気にアルジェントらしさがほとんど感じられないのが致命的だ。

そもそもアルジェントの映画には鮮血の美学と言われた美的感覚があった。しかしこの映画には『サスペリア』のような、天窓を突き破ってぶら下がった死体のアートのような美しさはない。さらに『インフェルノ』の肉屋のオヤジが唐突に振り下ろした包丁のような切れ味もない。また『シャドー』において、家の外をクレーンで一回りする意味のないカメラワークもなく、『フェノミナ』で殺人者に追いかけられるシーンに突然鳴り響くヘヴィメタルもなければ、『オペラ座血の喝采』『スタンダール・シンドローム』にあった弾丸貫通シーンのような異常なまでに局部にこだわる描写もほとんどない。(ちょっとあったけどインパクトなし)しかも『サスペリア』『インフェルノ』において特徴的だった赤と青の華麗な色彩さえもこの映画ではまったく使われていないのだ。それでも残虐シーンはふんだんにあるのでそれなりに楽しめるのだが、個々の殺しのシーンに”ため”とか”間”と言ったものがまったくないので、わびさびも何もあったものではない。美学なき殺人場面はむしろ下品で、えげつない印象だけが残ってしまい、アルジェント作品に美学がなければルチオ・フルチの映画になるということを発見した。

またこの映画ではCGを積極的に使っており、アルジェントにとっては意欲的な挑戦だったと言えるが、残念ながら真新しさはまったくなく、むしろ10年前のホラー映画かと思えるほど古臭さを感じてしまった。かつて時代の先端を突き進んでいたアルジェントの鋭い感性も、最近の若い監督によるホラー作品の感性やセンスに比べると、もはや時代遅れの感をぬぐえなかった。

あと決定的なのがローマ全土を混乱と恐怖でパニックに陥れるという内容なのに、やたらと描写がみみっちいこと。バレエ学校とか一軒家とかの限られた空間の中で異彩を放ってきたアルジェント監督だが、逆に広がりのあるスケール感のある描写については演出力のなさが露呈してしまった感がある。やはりアルジェントは細部にこだわる病的なまでの偏執的映像こそアルジェントらしさなのだろう。慣れないことはするものじゃないという教訓か。

まあそれでもアルジェント作品の集大成のようなセルフオマージュがたくさんでサービス満点だし、突っ込みどころもいっぱいあるのである意味退屈はしないだろう。でも果たしてアルジェントはこのままでいいのかという疑問も感じる。この映画は、墓場でブルドーザーが自ら掘っていた穴にはまってしまう場面で始まるが、これこそがこの映画全体を象徴していたようにも思える。アルジェントはこの映画で墓穴を掘った…なんてことにならないように頑張ってほしい監督の一人である。

(評価:★2)

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