コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ブルース・リー 死亡の塔(1980/香港)

逆に面白い。ブルース・リーの映画というよりは、「ブルース・リーの映画(笑)」という観。殆ど衝撃的なまでのツッコミ所の連続に、何か前衛性とすら錯覚しかける。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まず、登場したリーの雰囲気が、妙に悪役風。得意げに障子を破るロン毛のヒゲ男と会話を交わす様子が何やら禍々しい。そうした印象は、別の映画の未使用フィルムからリーの映像を接ぎ木した事による、映像の質感のズレにもよるのだが、話の運び自体も、誰が悪役で誰が味方側なのかが曖昧。鹿の生肉と生血を朝食にとるエグい白人格闘家もあっさり殺されるし、先がなかなか予測できない。

最も驚かされるのは、他ならぬリー自身があっさり殺される事。その場面である、仲間のチン・クー(ウォン・チェン・リー)の葬儀にしても、仏式で執り行われているのに、その棺の形は洋風。この黒い棺に「卍」の印、という異様なデザインに、「…ナチス?」と戸惑う間もなく飛んでくるヘリコプター。ヘリから下りてくるUFOキャッチャー状の装置が棺を掴んで去るのに巻き込まれて、リー、死亡。

この直後、再度吃驚するのが、どうもリーの実際の葬儀の記録映像らしきシーンが挿入される事。それ以前にも回想シーンで、「ブルース・リー ○歳」という、急すぎて嘘かホントか戸惑う映像が登場しており、「子役時代?」などと、リーに全然詳しくない僕の頭は混乱。役名のビリー・ローなのか、ブルース・リーなのか、その辺りの虚実の別も突如崩壊。

死亡シーン以外でも、そもそも最初から、殆どのシーンでリーは後ろ向きで顔が見えない。つまり代役。声も違う。役として死ぬ以前に既に死の影が憑きまとっているリー。実際死んでいるんだから仕方ない。ただ、代役の顔が映らないように、カメラが距離を置いたり、影で隠れるよう照明に工夫がされており、跳び蹴りで電灯が破壊される演出などには、ちょっと感心する。

とはいえ、リーの弟として登場したボビー(タン・ロン)が謎の仮面の人物に襲われる場面では、仮面を剥がされて逃走する敵の後ろ姿を見ながらふと、「ブルース・リーが訳あって仮面を被る設定にすれば良かったんじゃないか?」、などと思ったり。

さて、肝心の死亡の塔。これに関しても、例の鹿大好き白人のルイス(ロイ・ホラン)から、驚くべき話が。彼は塔の置物を手にしてそれを逆さにし、死亡の塔は地下に在る、と。「…《死亡の塔》というより、《死亡の竪穴》では…」などという疑問が浮かんでくるが、ボビーが実際に死亡の塔に足を踏み入れた瞬間、その、予想に反した特撮ヒーロー物の悪の拠点のような内装に、更に衝撃。そこをウロつく敵の雑魚どもも、銀色の布地に赤いラインの入ったコスチューム。一瞬にして、自分が観ているのが何の映画か分からなくなり、唖然。

そして、この近未来的(?)な秘密基地で行く手を遮る強敵がまた、豹柄の野生的な格好をしてはいるのだが、下は普通にズボンを穿いているミスマッチ感。それ以前に、顔がオカッパ頭の普通のオッサンで、凄い違和感。違和感の三段構え。

この基地の奥にいる敵の首領は、やはり悪者だったロン毛のヒゲ男こと、チン・クー。彼は、謎の祭壇がクルッと回転したその後ろの椅子に座っている。わざわざ後ろ向きに座って待っている事に何の意味があるのか不明だが、こんな大仰な秘密基地に隠れているからには、世界征服でも企んでいるのかと思いきや、「金が欲しくて、麻薬の密売を」と、変に現実的。

――と、全体的に胡散臭い雰囲気が濃厚すぎる映画だが、このツギハギ的な編集によって、劇中でのリー死亡までの部分が、半ばドキュメンタリー的な、奇妙な緊迫感を醸し出している。中盤以降も、先に進むにつれて無茶苦茶にされていく作品世界、その予測可能な展開には、キチンと作られただけの平凡な映画には無い面白さがある。

格闘シーンでタン・ロンが、首をカクカクッと動かしたり、奇声を上げたりする、中途半端なブルース・リー調や、何の魅力も無い彼が延々と敵と闘い続ける格闘シーンの空しさも含めて、妙な魅力のある映画。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。