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[コメント] 踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望(2012/日)

冒頭のシークェンスで絶望。「皆さんこれまでお付き合い頂いたでしょう?」という馴れ合い的な情緒に寄りかかるゾンビと化した「踊る」。こんな腐敗臭を放つ前に終焉するべきだった。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭の、青島とすみれがわざとらしく夫婦漫才的な唐揚げ屋を演じている人情コメディ的雰囲気や(時代がかった大仰な演技のせいで、偽装によって自然に商店街に馴染んでいるようには全然見えない)、犯人逮捕後の、店じまいを寂しがる台詞が「踊る」シリーズの終焉に対する自己言及とも聞こえるところなど、ベタベタな情緒で客を絡めとろうとするのが姑息過ぎて冷める。暴行犯一人捕まえるのに、わざわざあんな偽装を行なう必然性も分からない。犯人の父親のみならず商店街の人々がグルになって、犯人の所在を隠匿しそうだとかいうことなら分かるが、そんな空気は皆無であるし。

シリーズを通じて散々「壁」として描かれてきた組織の論理や上層部の独善性に、ファイナルでようやく一矢報いるのはいいが、それを行ない得たのは鳥飼の復讐心と策略であり、青島も室井も、殆ど駒として使われたにすぎない。彼らが、いったんは全責任を負わされて警察を辞めさせられる、或いはその寸前までいったのが、再び地位を取り戻すのも、鵜飼の告発文によるもの。鵜飼と大杉漣が機械仕掛けの神のように事態を収拾してしまう。主人公たちの主体性や自発性が事態を動かすというカタルシスが乏しくて、ファイナルでこれでいいのかと。シリーズ過去作で負った傷に悩む青島とすみれが、それを乗り越えて刑事としての自分を取り戻すドラマも、いまひとつ情動的にドライヴしないサブストーリーのまま不完全燃焼。

青島が、和久の遺した教えに従って、犯人の気持ちになって逃走ルートを推理しつつ自転車をこぐシーンは、もっと感動的にならなきゃ嘘だろう。これまで青島が接してきた犯人たちの言動から推察するのでもいいし、同じ警察官を追っているという設定を生かして、そのプロとしての判断を辿るというのでもいい。「子どもはバナナが好き」なんていう昭和の香りのする推理で、犯人が人質と潜む倉庫を当てるなんていう幼稚なプロットでしかその実力を描かれていないのは致命的。

君塚良一脚本の刑事物に備わっていた、稚拙なところはありながらも現代性を孕んでいた社会性も、今回は、警察機構そのものへの批判という、大きな枠の、それ故に鋭さを欠いたものになっていて、退屈。

(評価:★1)

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